プランA
エデューとグリクスが対峙していた。
呪文と呪文がぶつかり合う。応酬は刹那の読み合い。火花が飛ぶたび、周囲の空気が焦げついた。
だが、エデューの防御に異変が起きた。
……風景から、魔力が引き出せない?
連想したのは、故郷の草原だった。しかし、何も感じない。魔力の脈動が、そこにない。
グリクスが歩み寄る。
「分かるか? 君は今、“無力”だ。偶然じゃない。これは必然だ」
「――知っているさ。お前の能力は、相手が使う風景を先に使って潰すこと」
“魔術師殺し”の異名は、まさにそこから来ている。
「さすがに察していたか。つまらんな」
エデューは唇を噛む。
(このままじゃ押し切られる。――なら、最高の一手をぶつけるだけだ)
彼は大きく息を吐き出し、そして吸い込んだ。
思い浮かべるのは――大陸最古の巨樹。
人知れず生き、千年を超えて大地に根を張る、高さ百メートルを超える聖なる樹。
「《ハーモ・クグノチ》!」
大地を突き破り、巨大な蔓が天へと伸びる。
***
一方――
瓦礫でエデューと分断されたメグルは、街の通りを全力で走っていた。
「早く合流しないと……!」
人混みをかき分け、音のする方角へと進む。
その時――
地響き。
街路を突き破って、巨大な蔓が空へと伸びる。
「巨大な蔓……か? きっと、あの下にエデューさんが!」
続けざまに、もう一本の蔓が地面を貫いた。
メグルは迷わず、蔓を追って駆け出した。
***
「どうして、この風景を知っていた」
エデューが問う。
グリクスが笑い、顔を変化させる。
――少年の顔に。
「こいつが教えてくれたのさ。お前の可愛い弟子、アプレンがな」
「……!」
「最後の最後までお前を庇おうとしていた。だが、残念だったな。俺が殺したよ」
二本の巨大な蔓が、ゆっくりと絡まり合い、そして朽ちていく。
もう、切り札は使ってしまった。なら――削るだけだ。
エデューは奥歯を噛みしめ、魔力を両手に込めた。
「《ホフル・ギロン》!」
グリクスの左手に、黒い刃が形成される。
「《カイナ・ハフム》!」
空間がねじれ、見えない力が左手を挟み込む。
メキッ。
骨が砕け、黒い刃が砕け散った。
「ちっ……《トーモス・ミタマ》!」
怒りにまかせた火球が炸裂し、エデューは壁に叩きつけられた。
「もう魔力も体力も限界だろう? 詰みだよ、エデュー」
***
その時――
火球が横合いから飛んだ!
「《トーモス・ミタマ》!」
物陰から飛び出したのは――メグルだった!
火球をいなしながら、グリクスが目を見開く。
「貴様……!」
「エデューさん、プランAです」
メグルの声が、エデューの意識の端に届いた。
――プランA……。
それは、“共闘による反撃”を意味する、合言葉だった。
そして、エデューの視界は、静かに暗転していった。




