インターン
認定試験から三日後――。
メグルは、魔術師協会の研究室に呼び出されていた。
「インターン……ですか?」
ドーキンスの言葉を聞き返す。
「ああ。簡単に言えば実地研修みたいなものだ。さっそくだが、紹介しよう。出てきてくれ」
部屋の奥から一人の青年が姿を現す。
「あ、どうも。僕はフィン。よろしく」
メグルも軽く会釈を返した。
「君たちには一件、軽い任務をお願いする」
ドーキンスはそう言って、内容を簡潔に説明した。
――協会宛てに届けられた小包の中に、“呪具”と思われる物品があった。
送付元の所在確認と、危険性の有無を調査。
もし本当に危険がある場合は、速やかに回収・封印を行うこと。
***
任務地への移動中、フィンが口を開いた。
「協会ではね、基本的に任務は“二人以上”で行動することが推奨されてる。理由、わかるか?」
「有事の際に、二人で対処できるように……とか?」
「まあ、それがプランAだな。挟み撃ち、相互支援、死角のカバー。戦術的にも合理的だ」
「ってことは、Bもあるんですか?」
「あるとも。プランB――危険が発生したとき、片方が“囮”になって、もう片方が報告に戻る」
メグルの顔がひきつった。
「……それ、聞かなきゃよかったかも」
「大丈夫さ。今回の任務は、そこまで危険なもんじゃない」
***
目的地に到着すると、そこは木造二階建ての古びた民家だった。
チャイムを押すと、扉を開けたのは白髪の老婆だった。
「あらあら、お疲れでしょう。どうぞお上がりなさいな」
二人は居間に通され、お茶が振る舞われた。
「このたびは、お手数をおかけしてしまって……。不審な荷物が届いたもので、どうにも不安で……」
老婆がそう言いながらティーカップを差し出す。
メグルが口をつけようとした、その瞬間――
「痛っ――!」
カップが突然砕け、メグルの手のひらに裂傷が走った。
「これは……いけませんね」
老婆はすぐにハンカチを取り出し、傷口を押さえた。
「手際がいいですね」
フィンがぽつりと呟く。
「ええ、一人暮らしなものでね。何事もシャンとしてないと」
老婆はメグルの手当てをしながら言い、やがて立ち上がった。
「包帯を取ってきますね」
そう言って、階段を上がっていった。
彼女がいなくなるのを見計らって、フィンが小声でつぶやいた。
「まるで、最初からメグルが怪我することを知ってたみたいだな」
「まさか……そんな」
「ちょっと様子を見てくる。戻ってきたら、適当にごまかしてくれ」
フィンは立ち上がり、静かに階段を昇っていった。
***
二階の廊下を抜け、一つだけ開いた部屋の前に立つ。
扉の奥からは、わずかに光が漏れていた。
フィンはノックもせずに扉を開け、中に踏み込む。
部屋の中央には卓。そして、その向こうに背を向けた“老婆”の姿。
だが、フィンはすぐに違和感に気づいた。
――部屋の隅に、服が脱ぎ捨てられている。
いや、服じゃない……そこには、老婆の“本物の身体”が横たわっていた。
「お前……誰だ?」
フィンが静かに問う。
卓の前にいた“老婆”が、ゆっくりと振り返る。
その顔が、みるみるうちに変貌していく。
皺だらけの皮膚が引き締まり、骨格が再構成される。
次の瞬間、そこに現れたのは――
グリクス・イシュメール
「久しぶりに……獲物が来た」
男が、フィンに向かって手を伸ばす。




