魔術師試験
メグル、エデュー、ドーキンスの三人は、テストルームから出て廊下を歩いていた。
「さて……戻る方法は、惜しいところまではいったがな。現状の条件じゃ、人が通れるサイズの《門》は開けられそうにない」
エデューが渋い顔をする。
「とりあえず、魔術師協会に登録してみたらどうだ? 仕事を探すときにも何かと便利だからな」
ドーキンスが提案する。
「そうだな……確かに悪くない」
「なら早速、申請しに行こうか」
三人はその足で『魔術師管轄室』へ向かった。
ここでは、魔術師の登録と管理、試験の受付が一括して行われている。
窓口で職員から登録用紙を渡され、必要事項を記入する。
ドーキンスはその間に職員と会話し、振り返って言った。
「能力測定、明日に入れておいたぞ。僕も試験官のひとりだからよろしく」
「ずいぶんと急ですね……」
メグルが驚き混じりにつぶやいた。
***
翌日――魔術師試験当日。
メグルとエデューは、協会の廊下を並んで歩いていた。
「魔力の総量……つまり風景のストック数を測るテストは、手を抜け」
エデューが小声で助言する。
「えっ、なんでですか?」
「それが、お前さんの切り札だからだ。得意分野に引きずり込めれば、格上の相手でも倒せる。でも、その武器を最初から晒してしまったら――誰もその土俵に乗ってこなくなるだろ?」
「ああ……つまり、手の内を見せるなってことか」
「そういうことだ」
「他の項目も、手を抜いたほうがいいですか?」
「抜くのは“風景量”だけでいい。他まで手を抜くと……仕事が来なくなるぞ」
エデューは笑いながら、メグルの背中を軽く叩いた。
「頑張ってこい」
***
試験が終わった夜、宿の食堂で夕食を食べながら、メグルは試験の感想をエデューに語った。
「まず最初に面接があって――面接官は三人でした。その中に、ドーキンスさんも混じってて」
ドーキンスはほとんど相槌専門だったが、途中で他の面接官に促されて、ようやく質問を口にした。
「そういえば、変わった名前だけど、どんな意味なんだい?」
自己紹介からだいぶ時間が経った後の、唐突な問いだった。
「『暁』は夜明け、『巡る』は旅をしてまた戻ってくるって意味です。……響きが女の子みたいで、もっと男らしい名前がよかったんですけどね」
メグルの返答に、面接官のひとり――女性が反応する。
「ニホン……か。初めて聞く国名ね」
「……そうですよね」
(そりゃ、世界が違うんだから)
メグルは内心で苦笑した。
「最近、いろんな国から来るわよね。この前も、聞いたことのない国の子が受けに来てたわ」
***
面接のあとは、使用可能な魔法の棚卸しが行われた。
一つずつ、実際に魔法を唱えていく。
「《カイナ・オウ》、衝撃波。
《スミル・シャガン》、水流。
《ナギ・ゼクー》、打ち消し。
《トーモス・イフキ》、火炎放射。
《トーモス・ミタマ》、火球爆発」
「以上、五つだね」
ドーキンスが確認する。
「はい」
メグルは、ひとつだけ“意図的に”漏らしていた。
――《トーモス・シン・アニマ》
固有風景から召喚される、秘密の炎魔法。
それを知っているのは、今のところコッチネラと自分だけ。
***
次に行われたのは、魔力総量の測定だった。
いわば、「風景ストックがどれほどあるか」の確認だ。
メグルは、事前の打ち合わせ通り途中で嘘をついた。
「これで限界です」
実際には、まだ半分以上残っていた。
「――ここまでとは。正直、もっと少ないと思ってたよ」
ドーキンスが目を細める。
「魔力量だけで言えば……ティア2。いや、ティア1の下位にも届いてるかもしれない」
「ティア?」
「1から5までの等級があってね。数字が小さいほど優秀な魔法使いってことさ」
「つまり、格付けですね」
「そんなところ。結果は明日出る。楽しみにしていてくれ」




