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風景から魔力を  作者: hato-ryuji
首都編
38/52

30㎝は狭すぎる

 ドーキンスが一息ついてから、口を開いた。


「ところでエデュー、これから何をするつもりなんだ?」


「分からずにこれを準備していたのか?」


 エデューが苦笑いしながら言う。


 部屋の中には、さまざまな計測機器が並べられている。


 ドーキンスは首をすくめながら答えた。


「まあ、面白い実験ならデータくらい取らせてもらおうと思ってね。興味本位さ」


 エデューは改めて、ドーキンスに今回の目的を説明する。

 ――世界間を移動する魔法の検証、それがこのテストの本題だった。


 話の内容こそ荒唐無稽に聞こえるが、エデューの口調があまりにも真剣だったため、ドーキンスは素直に耳を傾けた。


 三人は机に集まり、図書館から持ち出した古い書物を広げて手順を確認する。


 この魔法の最大の特徴は、《風景》を動力源とすることだった。


 通常の魔法は「白・青・赤・緑・黒」の属性に分類され、各色ごとに対応する風景が存在する。

 だが、この魔法は例外だった。


 ――必要なのは、「移動元」と「移動先」、二つの風景。


 特に重要なのは、移動先の風景から引き出す魔力と記されている。


「メグルには、“移動先”の風景から魔力を引き出す役に専念してもらおう」


 エデューが言うと、手で《印》を作る。


 両手を前に突き出し、親指と人差し指をかみ合わせるようにしてから、輪を作るように徐々に広げていく。


 メグルはその輪の中に自分の手を添え、目を閉じた。


 心に描くのは――故郷の風景。

 いつかの街並み。あの日見た夕暮れ。


「《エニシ・アーク》」


 エデューが呪文を唱える。


 空中に《門》が開いた。


 直径30センチほどの、垂直に浮かぶ円盤。


 その外縁は銀色の粒子がゆらめき、表面にはメグルが住んでいたような市街地の景色が映し出されている。

 裏面は、黒と灰色のマーブル模様が蠢いていた。


「……開いた、みたいですね。小さいけど」


「試してみよう」


 ドーキンスが引き出しから一枚のメモ用紙を取り出し、くるくると丸めてから《門》に投げ入れた。


 メモは抵抗なく通過し、向こう側に落下していった。


 ドーキンスは踏み台を持ち出し、角度をつけて《門》を覗き込む。


「……うん、ちゃんと通じてるようだな」


 メグルも覗き込むと、見覚えのあるアスファルトの地面にメモが落ちているのが確認できた。


「……でも、このサイズじゃとても通れませんね」


「柔軟を極めれば何とか通れるんじゃないか」


 ドーキンスが笑いながら茶化す。


 彼は木製の棒を持ってきて、《門》の縁を軽く叩いた。


 コン、コン――


 固定されているらしく、しっかりとした反応が返ってくる。


 しかしそのとき、《門》がわずかに振動を始めた。


「おっ!? まさか……広がるのか?」


 ドーキンスが目を輝かせる。


 が――次の瞬間、《門》は急激に収束した。


 棒が縁に引っかかり、みしみしと軋む音を立て――バキッと折れる。


 そして、残った棒の先端ごと、《門》は完全に消えた。


「……向こうに“落とし物”しちゃいましたね」


「もう一度やってみましょう」


 メグルが前に出て言う。


「今度は、全力で魔力を流し込みます」


 エデューが頷き、《印》を再び結ぶ。


「《エニシ・アーク》」


 再び浮かび上がる《門》。


 メグルは渾身の魔力を送り込んだ。


 だが――《門》のサイズは、50センチ程度で頭打ちだった。


 ドーキンスが計器を確認しながら言う。


「……魔力が足りないな」


「なら、もっと送ります!」


「違うんだ。必要なのは“量”じゃなく“勢い”だ」


「……勢い、ですか」


「そう。総量よりも、瞬間的な出力がカギになる。

 計器の動きから見るに……1.5倍。いや、2倍は要るな」


 エデューが指をすっと動かし、《門》を閉じた。

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