下へまいります
メグルの案内で、二人は岩と樹木の入り混じった小道を進む。
「この辺り、見覚えがあります。大きな倒木の形、思い出しました」
目的地までは、もう少しだ。
バツ印が描かれた看板が、今にも倒れそうな角度でたたずんでいる。
左手には谷へと真っ逆さまに落ちる断崖絶壁。右手には、こちらを見下ろすような茂み。
メグルが振り返ると、ゴーレムの群れが迫っていた。
最後尾には、あの《ボス》がいる。
だが――
「後から行く」と言っていたコッチネラの姿が見えない。
メグルは立ち止まり、《チビ》たちを迎え撃つ。
《チビゴーレム》は、通常の炎魔法でも対応可能だ。
……問題は、あのデカブツ。
一歩一歩、重厚な足取りで《ボスゴーレム》が近づいてくる。
攻撃圏内に入った瞬間、ゴーレムが低く構えた。
まるで、飛びかかる前にエネルギーをためるかのように。
「今です!」
メグルが叫んだ、その瞬間。
崖上の茂みから、コッチネラが飛び出す。
「《トーモス・シン・アニマ》!」
巨大な《虎》が頭上から、《ボスゴーレム》に飛びかかる!
「バツ印の看板の意味、知ってるか?――『襲撃注意』さ!」
《虎》が組み付き、ゴーレムを崖際まで押しやる。
だが《ボスゴーレム》は抵抗の気配すら見せず、両手を天に掲げた。
「引け!」
コッチネラの声で、《虎》が一度飛び退く。
《ボス》が両腕を振り下ろした瞬間、周囲に瓦礫が飛散した――
その破片は空中で《チビゴーレム》へと姿を変える。
二人は再び囲まれた。
***
《虎》が崖を三角飛びし、再度《ボス》に襲いかかる。
しかし、崖に突き落とすには至らない。
《ボス》はまたしても、両手を高く掲げた。
「そのままで――最後の一押し、かけます!」
メグルが走る。
「《トーモス・ミタマ》!」
チビゴーレムを瓦礫に変え、踏み台にして跳躍。
さらに、跳び箱の要領で次のチビを飛び越えて――
「《カイナ・オウ》!」
衝撃を真下にぶつけ、跳躍距離を稼ぐ。
ようやくコッチネラの元にたどり着く。
彼女の手の甲に、メグルが手を重ねた。
「いっけぇえ!!」
ありったけの魔力を“流し込む”。
《虎》の四肢から、炎が吹き上がる。
一気に後方へ噴射――二つの巨体が、空中に放り出される。
《虎》は空中で魔力の霧となり霧散し、《ボスゴーレム》はそのまま谷底へ。
落下した瞬間、サワラネ鉱の鉱石に激突。
衝撃が爆発的に広がり――
耳を劈くような高周波とともに、振動がゴーレムを塵へと変えていった。
***
だが、一安心する暇はなかった。
《チビゴーレム》たちが、二人を取り囲む。
魔法で反撃するも、手が回らない。
拳が振り下ろされようとした、その瞬間――
「《ハーモ・ツガーミ》!」
崖の上の茂みから、蔓が伸びてくる。
メグルとコッチネラを囲み、バリケードとなる。
チビたちが接近すると、蔓が巻き付き、次々と締め落としていく。
崖の上から、蔦の坂道が形成され、エデューがゆっくり降りてきた。
「おいおい、どうしたお前ら」
エデューが出迎える。
「その傷はなんだ」
「先の戦の、跡片付けを少々……」
メグルが息を整えながら答える。
「あはは……」
コッチネラが静かにこぼす。
「やっぱり……一緒に悩んだり、勝利を喜んでくれる人が、そばにいてほしいな」
「一緒に来ますか?」
メグルが問いかける。
「いいよ。どうせ、すぐに帰っちまうだろ?」
「さあ、どうですかね。……とりあえず首都に行けば、何かしら情報が見つかるかもしれませんし」
「できるよ。あたしの予感、けっこう当たるんだ」
「様子を見る限り……何かをつかんだみたいだな」
エデューが、二人の手を順に取って、崖上へ引き上げる。
「数日、手の様子を見て問題なければ――出発しよう」
三人は、ブラッド・ロータスの拠点へと帰っていった。




