巌と牙
男は、闇の中に語りかける。
「カンナラビの罠が起動したらしいな」
脳内に、直接声が響いた。
――ああ。乗り越えることができれば、首都までたどり着くだろう。
「乗り越えられなかったとしたら?」
――ただ死ぬだけだ。
「わざわざ手間をかけて招いたのでは?」
――その程度の存在であれば、捨て置けばよいだろう。
――作物だって、すべての種が育つわけではないだろう。
***
「《トーモス・ミタマ》!」
メグルが先制攻撃を放つ。
火球が、ゴーレムのみぞおちに炸裂する――が、効いている様子はない。
「そのまま攻撃しても、効かないようだな」
コッチネラが冷静に分析し、呪文を唱える。
「なら、関節を狙って……《トーモス・カルラ》!」
炎が螺旋を描き、ゴーレムの肩関節を直撃する。
その巨体が、一瞬動きを止めた。
「やった……?」
メグルが呟く。
だが次の瞬間、ゴーレムは腕をぐるぐると回し始めた。
ダメージを確認するような挙動――見る限り、効果はなさそうだ。
「ふー……こうなると、答えは一つだな」
コッチネラが構える。両手は、何かを握るような印。
「――最大火力で圧倒する。《トーモス・シン・アニマ》!」
コッチネラの前方に、巨大な火の玉が出現する。
その大きさは、合体したゴーレムと互角。
火の玉は回転しながら、やがて巨大な虎の姿へと変貌した。
炎の《虎》が、ゴーレムへ突進する。
鋭い前脚でしがみつき、光り輝く牙を肩口へ突き立てる――が、牙は体表を滑り、傷つけるには至らない。
一見、互角の押し合い。しかし――
足元に目を凝らすと、《虎》は少しずつ後退していた。
コッチネラの額に、じわりと汗がにじむ。
《虎》はいったん跳び退き、ゴーレムの周囲を警戒しながら歩き始める。
やがて、コッチネラたちと反対方向へ回り込んだその瞬間。
ゴーレムが突進してきた。
両者がぶつかる寸前、コッチネラが叫ぶ。
「逃げるぞ!」
「え、ちょっと――」
「正面対決じゃ、かなわない! いいから、ついてきな!」
メグルの背中を叩き、コッチネラは走り出す。
背後から、ゴーレムが地響きを立てながら追いかけてくる。
その一歩は重く、だが大きい。ほぼ同じ速度で迫ってくる。
二人は近くにあった洞窟へと逃げ込んだ。
***
ボスゴーレムが、洞窟の入口を力任せに叩き続ける。
その衝撃は、岩盤を伝って内部に響いた。
しかし――
とりあえず、すぐに洞窟が崩壊する気配はなかった。




