ここじゃないどこか
わら縄で拘束されたメグルは、農村の中央に位置する広場へ連れていかれた。周りには村人が集まっている。
感じられる雰囲気は2つ。
1つ目は異邦人に対する警戒・恐怖。
2つ目はその異邦人をとらえた勇敢な男達への称賛だ。
特にメグルにタックルをした若者は英雄扱いのようだ。内容はわからないが、「へロス」と何度も掛け声が聞こえる。彼の名前だろうか。
広場の端で、メグルをしきりに確認しながら白熱した議論をしている一団があった。
議論がひと段落すると、長老と思しき老人と、ローブを身にまとった壮年の男がメグルに近づいてきた。
老人は、わら縄に縛られたメグルの目をじっと見た。
ローブの男に目配せをし、先ほどまで議論していた一団に戻っていった。
ローブの男は、メグルを縛るわら縄に手を触れた。
男は、ここじゃないどこかを見るような、はるか遠くに焦点を合わせるような、そんなそぶりを一瞬だけ見せ、小声で何かをつぶやいた。
すると、メグルを縛っていたわら縄の一部が焼き切れた。
ローブの男は、メグルに向かって自分についてくるように身振りで伝えた。
メグルが立ち止まっていると、男は再び遠くを見るようなそぶりをし、また別の何かをつぶやいた。
わら縄が焼き切れる時とは違う言葉を。
すると、メグルの背後から強い風が吹いてきた。
風に押されて、メグルは一歩前に進んだ。
メグルは周囲を見渡したが、他の人は風にあおられている様子は見受けられない。
風は彼一人に対して吹いているようだ。
メグルはローブの男に従い、彼の後を歩いていった。