向いている技術
訓練場にて、三日目の訓練が始まった。
「これから教えるのは、一番アンタが身につけるべきテクニック」
コッチネラが説明を始める。
「自分の魔力を他人の魔法に流し込む技術で、一般的に『流し込み』って言われてる」
「確かに、風景のストックが大量にあるおれ向きですね」
メグルがうなずく。
「やり方は、相手に触れた状態で風景を思い浮かべるだけ。
普段魔法を使うときのルーチンから、呪文と〈印〉を取り除いたものって感じかな」
コッチネラが、メグルに近寄るように合図を送る。
「じゃあ、早速やってみようか」
メグルが手を伸ばしかけたが、ふと動きを止めた。
「……何してんの?」
コッチネラが眉をひそめる。
「どこに触れればいいのかなと」
「じゃあ、ここにしな」
そう言って、左手を差し出す。
メグルはコッチネラの手の甲に、自分の掌を重ねた。
コッチネラが《トーモス・イフキ》を唱え、メグルは風景を思い浮かべて魔力を流し込む。
魔力の量に応じて、炎が大きくなったが――
時折、勢いがふっと弱まった。
「……時々手が離れるから、魔力が安定しないんだってば」
コッチネラがぼやきながら、メグルの手を振り払う。
そのまま逆に、彼の手をぐっと鷲掴みにした。
「変におどおどしながら触れてる方が、かえってやらしいんだよ」
冗談めかして言いつつも、魔力の流し込みは安定し、炎の勢いが戻る。
しばらくしてから、コッチネラが魔法を止めた。
「『流し込み』については、こんなもんかな」
***
メグルとコッチネラは、山道を歩いていた。
道中、奇妙な顔のような岩石が地面に埋め込まれているのが見えた。
その顔の額と思しき部分には、タコのような彫刻が施されている。
下には文字があったが、風化していて断片的にしか読めない。
――ヨグ……エル……リッチ?
「この顔、何ですか?」
メグルが石像に触れながら尋ねる。
「ブラッド・ロータスの人たちが作ったんですか?」
「あたしたちとは無関係。
戦争のときに使われた兵器――今となっては休眠中のゴーレムさ」
兵器と聞いた瞬間、メグルがビクッと手を引いた。
「怖がりだなぁ」
コッチネラが笑う。
「そいつらは、もう動かないって。
一般的にゴーレムってのは、術者の“血液”が動かすための鍵になってるんだよ」
そう言って、彼女は腰に携えたナイフに手を伸ばした。
「一応、あたしの血でも試してみたけど、1ミリも動かなかった。
だから、アンタが撫でたくらいじゃ起きやしない。試しにやってみる?」
「嫌ですよ。単に切り傷が増えるだけじゃないですか」
そう言いながらも、メグルの警戒心は解けきっていなかった。
「やろうと思えば、あたしの魔法でもぶっ壊せるし」
「じゃあ、壊しておけばいいじゃないですか」
「まあ、実害はないし。
あと、結構固いんだよ。そいつ。面倒だから、やりたくないの」
二人は、石像たちを横目に見ながら、再び足を進めた。




