刃物は使いよう
訓練場にて、コッチネラがメグルに説明をしている。
「まずは《トーモス》系統の中で、一番基本的な魔法――《トーモス・イフキ》――から始めるよ」
――確か、ブーリアンの塾を襲った奴らが使っていた魔法だな。
そう思い出し、メグルは苦い顔をする。
「何さ、その表情は」
「いえ、なんでもないです……」
「思い出した。どこぞのチンピラが同じ魔法を使ってたってやつでしょ?」
コッチネラが肩をすくめる。
「でもさ、『嫌いな奴が使ってた技を使わない』なんてルールを自分に課してたら、最終的に何も使えなくなるぜ」
「頭ではわかってますよ。……気持ちでは、まだ受け入れ切れてないけど」
「それにな。火炎魔法ってのは、どれくらいの威力があるか客観的に判断できる魔法なんだ。
つまり、相手にぶち込む前に、そいつが白旗を上げる。……だから、むしろ戦いたくないお前向きだよ」
そう言って、コッチネラが《トーモス・イフキ》の説明を始める。
「《トーモス》系統に代表される“赤魔法”は、山、高木、塔――空高くそびえる風景に適した魔法だ。
その中でも《トーモス・イフキ》は、前方に炎を噴射するシンプルな魔法だよ」
印の形は、五本の指を前方に向けた構え。
「さ、やってみな」
「《トーモス・イフキ》!」
メグルが唱えると、一瞬だけ炎が前方に立ち上がった。
「上出来、上出来!」
***
翌日、訓練場。
コッチネラが、メグルに再び説明を始めた。
「最低限、覚えてもらわなきゃならない魔法がもう一つあるんだ」
「最低限って……どういうことですか?
攻撃なら、先日教わった《トーモス・イフキ》で何とかできそうですけど」
コッチネラは、積み上がった瓦礫の山を指さす。
「じゃあ、試してみて。昨日の《トーモス・イフキ》で、あそこを狙って」
「了解」
メグルは印を組み、《トーモス・イフキ》を唱えた。
炎が瓦礫をなめ、表面を黒く焦がす。
「見ての通り、《トーモス・イフキ》は熱によって焼くことはできるけど、爆発や衝撃はほぼゼロ。
つまり、耐熱性のある相手には効きにくい」
そして、コッチネラは右手に炎を集めた。
「――で、そういうときに使うのがこいつ。《トーモス・ミタマ》!」
彼女が炎の球を瓦礫の山に向かって放ると、
ドンッという爆音とともに、瓦礫が吹き飛んだ。
「使い分け、か……」
メグルがつぶやく。
「《トーモス・ミタマ》!」
メグルが同じ呪文を唱え、炎の球を出現させる。
それを地面に向けて投げると、爆発が起きた。
「前に戦った時、時間が経ってから爆発してた気がするんですが……あれって別の呪文なんですか?」
「同じ魔法だよ」
コッチネラが答える。
「魔力の込め方で、爆発のタイミングを調整できる。一度炎の球を作ったあとに、殻をかぶせるイメージかな」
メグルがもう一度《トーモス・ミタマ》を唱えた。
今度は、しばらく経っても爆発しない。
「不発かな……?」
様子を見に行こうとしたメグルを、コッチネラが慌てて止めた。
「ちょっと、待った! 一旦、休憩入れようか」
二人が部屋を出た、その瞬間――
ドガァン!
背後で爆音が鳴り響いた。
「……な? 近づかなくてよかったでしょ」




