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風景から魔力を  作者: hato-ryuji
山地編
27/52

手加減無用

「二人とも、準備はいいか?」


 エデューが言う。


「試合、開始っ!」


 試合開始の時点で、二人の間には射線が通っていたが、お互いすぐに物影に隠れられる状況だった。


 先手を取ったのは、コッチネラだった。


「《トーモス・カルラ》!」


 呪文とともに、二重らせんの軌道を描く炎が、メグルに向かって放たれる。


 メグルは物影に飛び込み、回避する。


 耳に「《トーモス・ミタマ》」という声が届いた。

 直後、炎を圧縮したような緋色の玉が、頭上から降ってくる。


「爆発する前に打ち消さないと危ないぞ」


 壁越しに、コッチネラの声が聞こえた。


 あちこちで爆発音が鳴り響く。

 メグルは素早く打消し魔法《ナギ・ゼクー》を緋色の玉に放ち、無効化する。


 コッチネラは《トーモス・ミタマ》を連発し、メグルを追い立てる。


***


 やがて、コッチネラがメグルの前に姿を現した。


「撃ってきなよ。この距離なら届くでしょ?」


 挑発するように、コッチネラが促す。


「《スミル・シャガン》!」


 メグルが水流を打ち出す。


「《トーモス・トーバリ》」


 コッチネラが呪文を唱えると、炎の幕が地面から立ち上がり、二人の間を遮る。


 メグルの放った水流は、炎の幕に触れる前に蒸発してしまった。


「《トーモス・ツムージ》!」


 幕の向こう側から、フリスビーのような炎の円盤が飛んでくる。

 メグルはそれを打ち消す。


 円盤は連続して迫ってきた。

 二発、三発、四発――次々といなし、攻撃が止む。


 メグルは、炎の幕そのものに打消し魔法を放つ。

 相殺の瞬間、背後に気配を感じた。


「はい、あたしの勝ち」


 後ろから声がし、それに続いて――紙風船がチリチリと焼ける音。


 振り向くと、コッチネラがしたり顔で立っていた。


***


 エデューが物見台から降りてくる。


「容赦ないな、コッチネラ」


「手加減とか、そういうまどろっこしいのは苦手なんだよ。……それとも、手加減した方がよかった?」


「全然」


 メグルがきっぱり否定する。


「手加減しといて、負けそうになると本気出すのが一番ムカつきます」


「同感」


 コッチネラが笑みを浮かべる。


「立ち話もなんだし、とりあえず戻ろうか」


***


 廊下を歩きながら、メグルが問いかける。


「そういえば、コッチネラさんが炎のカーテンの裏から、おれの背後に一瞬で移動したのって、何の魔法ですか?」


「え? 普通に歩いただけだけど」


 コッチネラがあっけらかんと答える。


「メグルの視点からだと、そう見えたのか」


 エデューが説明を始めた。


「あれは、《トーモス・ツムージ》の軌道を曲げてたんだ。

 同じ立ち位置から連続で放ってるように見せかけて、実は徐々に位置をずらしてた」


「こんなふうにね。……《トーモス・ツムージ》」


 炎の円盤が三人の周囲を旋回する。


 メグルはそれを、目を輝かせながら見つめた。


「気に入ったんなら、これからたっぷり教えてやるよ」

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