手加減無用
「二人とも、準備はいいか?」
エデューが言う。
「試合、開始っ!」
試合開始の時点で、二人の間には射線が通っていたが、お互いすぐに物影に隠れられる状況だった。
先手を取ったのは、コッチネラだった。
「《トーモス・カルラ》!」
呪文とともに、二重らせんの軌道を描く炎が、メグルに向かって放たれる。
メグルは物影に飛び込み、回避する。
耳に「《トーモス・ミタマ》」という声が届いた。
直後、炎を圧縮したような緋色の玉が、頭上から降ってくる。
「爆発する前に打ち消さないと危ないぞ」
壁越しに、コッチネラの声が聞こえた。
あちこちで爆発音が鳴り響く。
メグルは素早く打消し魔法《ナギ・ゼクー》を緋色の玉に放ち、無効化する。
コッチネラは《トーモス・ミタマ》を連発し、メグルを追い立てる。
***
やがて、コッチネラがメグルの前に姿を現した。
「撃ってきなよ。この距離なら届くでしょ?」
挑発するように、コッチネラが促す。
「《スミル・シャガン》!」
メグルが水流を打ち出す。
「《トーモス・トーバリ》」
コッチネラが呪文を唱えると、炎の幕が地面から立ち上がり、二人の間を遮る。
メグルの放った水流は、炎の幕に触れる前に蒸発してしまった。
「《トーモス・ツムージ》!」
幕の向こう側から、フリスビーのような炎の円盤が飛んでくる。
メグルはそれを打ち消す。
円盤は連続して迫ってきた。
二発、三発、四発――次々といなし、攻撃が止む。
メグルは、炎の幕そのものに打消し魔法を放つ。
相殺の瞬間、背後に気配を感じた。
「はい、あたしの勝ち」
後ろから声がし、それに続いて――紙風船がチリチリと焼ける音。
振り向くと、コッチネラがしたり顔で立っていた。
***
エデューが物見台から降りてくる。
「容赦ないな、コッチネラ」
「手加減とか、そういうまどろっこしいのは苦手なんだよ。……それとも、手加減した方がよかった?」
「全然」
メグルがきっぱり否定する。
「手加減しといて、負けそうになると本気出すのが一番ムカつきます」
「同感」
コッチネラが笑みを浮かべる。
「立ち話もなんだし、とりあえず戻ろうか」
***
廊下を歩きながら、メグルが問いかける。
「そういえば、コッチネラさんが炎のカーテンの裏から、おれの背後に一瞬で移動したのって、何の魔法ですか?」
「え? 普通に歩いただけだけど」
コッチネラがあっけらかんと答える。
「メグルの視点からだと、そう見えたのか」
エデューが説明を始めた。
「あれは、《トーモス・ツムージ》の軌道を曲げてたんだ。
同じ立ち位置から連続で放ってるように見せかけて、実は徐々に位置をずらしてた」
「こんなふうにね。……《トーモス・ツムージ》」
炎の円盤が三人の周囲を旋回する。
メグルはそれを、目を輝かせながら見つめた。
「気に入ったんなら、これからたっぷり教えてやるよ」




