もう、弟子じゃない
「何年ぶりだ。わが弟子よ」
エデューが言う。
「もう、弟子じゃないよ」
コッチネラが応える。
「一人前になった後でも――」
エデューの言葉を、コッチネラが遮った。
「そういう意味じゃない。あたしはアンタの下から逃げだしたろ」
「気にしてないぞ。ずっと訓練は続けているんだな」
訓練――先ほどコッチネラが独りで魔法を使っていたことを指して、エデューが言う。
「別に……」
コッチネラが言う。
「やらないと、しっくりこないだけだよ」
口調に反して、彼女の表情は和らいで見えた。
「先輩弟子として、ここはひとつ引き受けてくれないか」
「やだよ。そもそも弟子じゃないし……」
コッチネラがメグルに向き直る。
「――そもそも誰なの?」
「暁メグルです」
「あたしはコッチネラ」
「さっきコッチネラさんが唱えていた魔法って、もしかして《トーモス・イフキ》ですか?」
「《トーモス・ツジゼ》だよ。ホフル系統だから、かなり似てるね。で? それがどうしたの」
「だったら、習わなくていいです」
「え?」
コッチネラとエデューが同時に口にし、目を見開く。
「少し前、ならず者たちが似た魔法を使っているところに出くわしたんです」
メグルが答える。
「それで?」
コッチネラが問いかける。
「そんな奴らと同じ魔法を使いたくないってわけ?」
メグルがうなずく。
「それに、今のおれでも防御に専念すれば、相手の魔力が尽きるまで持ちこたえられます。
一対一、生半可な攻撃なら数人相手でも」
「……そういうことね」
コッチネラがため息をつく。
「なら、本物の赤魔法を味わっても、同じことが言えるかどうか試してみようじゃない」
そう言ったあと、コッチネラがメグルをある場所へ案内し始める。
エデューがメグルの隣に来て、ささやいた。
「やったな。やる気になってくれたみたいだ。あいつは負けず嫌いで意地っ張りだ。だから、『押してダメなら引いてみる』作戦に変えたのはナイス機転だぞ」
「気が進まないのは本心です」
***
メグルが案内されたのは、バスケットボールコートほどの広さの空間だった。
彼は周囲を見渡す。
所々に遮蔽物があり、物陰を利用しながら移動できるようになっている。
部屋の角には、全体を見渡せる物見台も設置されていた。
「訓練場だよ」
コッチネラが言う。
彼女は部屋の隅にある用具箱をあさり、何かを探し始めた。
そして目当てのものを見つけ、メグルに手渡す。
それは、紐でくくられた紙風船だった。
「そいつを体に括り付けて。そんでもって、そいつを魔法で破壊した方が勝ちね」
コッチネラが一方的に進める。
メグルが詳細を尋ねたところ、それはコッチネラたち――ブラッド・ロータス――の試合方式らしい。
相手の体に直接攻撃すると大怪我をするので、その代わりに体から少し離れた位置に標的――紙風船――を設けて、そこを狙うというルールだった。
ちなみに、紙風船を手で引っぱったりして相手の攻撃を避けるのはルール違反ではない。
ただし、コッチネラ曰く、
「構わないけど、体に寄せてると的ごと丸焦げにするけど。それでいい?」
とのことだった。
メグルとコッチネラは、部屋の対頂角にそれぞれ移動する。
一方、エデューは物見台に上がった。




