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風景から魔力を  作者: hato-ryuji
山地編
25/52

何の用?

 メグルとエデューの二人は、山道を歩いていた。


 イナーボ地方を出立してから五日目。晴れた日ではあったが、二人は鬱蒼と茂る木々の下にいて、暗がりの中を進んでいた。


 この地方はカンナラビと呼ばれており、国を南北に分断する山脈が地方の大半を占めている。


「そろそろ看板があるはずなんだが」


 エデューが地図を広げながら言った。


 一時間ほど歩いたところで、苔むした看板を見つけた。

 看板には、かすれた文字で『ブラッド・ロータス』とだけ書かれている。


「これだ」


 看板を指さして、エデューが言う。


「そろそろ目的地にたどりつくはずだ」


「その看板、かなりの期間手入れされてないみたいですよ」


「確かにな」


 エデューが説明を始める。


「これから会うのは“ブラッド・ロータス”と呼ばれている一族の一人だ。ブラッド・ロータスとは“赤魔法”――攻撃に特化した魔法使いの集団だ。良く言えば勇猛果敢、せっかちで感情的な奴らだ」


 メグルは彼らを想像する。


 熊の毛皮を被った筋骨隆々の大男。

 一様に頭を丸め、鍛錬として燃え滾る床の上を歩く修行僧。

 炎を囲み、一心不乱に呪文を唱える集団。


 ――どれを想像しても、仲良くなれるとは思えなかった。


***


 進んだ先の道は、崖崩れで封鎖されていた。


 右手を見ると、「迂回路」の表示が付いたボロボロの看板がある。


 その案内に従い進むと、むき出しの谷間に沿って山道が続いていた。

 下をのぞくと、牙のような赤銀の岩石が見える。


「珍しいな。サワラネ鉱の鉱脈か……」


 エデューがつぶやく。


「触らないよう……?」


「“サワラネ鉱”といわれる稀少な鉱物の一種だ。

 通常、鋭利な形状をしていて、とても硬い。最大の特徴は、衝撃が当たった瞬間に振動することだ。

 その衝撃が大きければ大きいほど、強い反発が発生し、対象を破壊する」


 メグルが谷底をのぞき込む。


「おい、危ないぞ」


 エデューが注意する。


 そして、その辺に落ちていた漬物石ほどの石を拾い、谷へと落とした。


 谷底に当たった瞬間、金属が共鳴するような音が響いた。

 石はバラバラに砕け、やがて砂になっていく。


***


 メグルとエデューは、看板に導かれブラッド・ロータスの本拠地にたどり着いた。


 そこには、山の斜面に面した石造りの建物があった。


 大きさは、メグルの住んでいる市の市民体育館ほどで、建物の後部は山の斜面にめり込んでいる。


「誰かいないか?」


 エデューは建物の内部に向かって呼びかける。


 しかし、呼びかけが反響するだけで、返事はなかった。


 建物には大きな鉄の扉があり、エデューが押すと内側に動いた。


 二人は建物に入る。


 建物内部は、等間隔で炎が炊かれており、薄暗いが内部の様子は見て取れた。


「炎が炊かれているってことは、少し前に誰かがここにいたってことですね」


 メグルが言う。


 エデューがそれに同意した。


 二人は人の気配がない廊下を歩く。


 しばらくすると、メグルは断続的に聞こえる音に気づいた。


 その音は、コンロの着火音――「ボッ、ボッ」といった音に似ている。

 一定のペースで燃え続けるものではなく、新たに火を付けたり、出力を上げたりする音だ。


 メグルは耳を澄ませて、音の発生源へと歩を進める。

 エデューがその後に続く。


 ある部屋の入口に、揺れる光が見えた。


 メグルが部屋をのぞき込もうとしたその瞬間――


 部屋の内側から炎の渦が流れ出て、メグルの鼻先をかすめる。


 メグルは大きくのけ反り、尻もちをついた。


 地面に転がるメグルをよけて、エデューが部屋をのぞき込む。


「久しぶりだな、コッチネラ」


 エデューが部屋の中の人物に声をかける。


「わざわざこんなところまで……何の用?」


 返事の声は、少し高めで――少年、もしくは女性のものに聞こえた。


 そして、声の主が姿を現す。


 二十代半ば。メグルからすると、数歳年上と思われる女性だった。

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