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風景から魔力を  作者: hato-ryuji
港街編
24/52

ずっと覚えてる

 襲撃事件が起こった翌日――メグルが通い始めて6日目の朝。


 塾の前で、メグル、ブーリアン、エデューが話していた。


「改めて見てみても……すごいありさまだな」


 エデューが言う。


 塾の室内はガラスや木片、瓦礫が散乱し、戦いの爪痕をそのまま残している。


 遠く、岬を上ってくる子供たちの姿が見えた。


「本当に、やめるつもりですか?」

 メグルがブーリアンに問いかける。


 ブーリアンは、無言でうなずいた。


 


 塾にたどり着いた子が「おはよう」と言う。

 三人もそれぞれに返事を返す。


 塾生のひとりが、塾の中をのぞき込んだ。


「危ないから、中に入るなよ」


 ブーリアンが声をかける。


 すると、別の塾生が掃除道具を抱えて現れた。


「だから言ったろ。危ないって。今日は休みなんだ。片付けなくていい」


「休みってことは、いつか戻ってくるってことでしょ?」


「……多分な」


「だから。先生が戻ってきたとき、きれいにしておかなきゃ」


 


 子供たちが全員そろったところで、ブーリアンが話を始めた。


「すまない、みんな」


 彼は静かに切り出す。


「先日話した“《機関》に呼ばれた”っていう話――あれは嘘だ。本当は、塾をやめるように脅されていたんだ」


 ポケットから取り出したのは、扉に貼られていた2枚の張り紙。


「塾は……もうやめるつもりだ。理由は2つある」


 子供たちは静かに、彼の言葉に耳を傾けていた。


「1つ目は、昨日と同じようなことがまた起きたら、俺には守りきれる自信がない。

 2つ目は、……俺には、お前たちに教える資格がないと思ってる」


 言葉を選びながら、続ける。


「昨日、メグルが止めなかったら……たぶん俺は、あの襲撃者たちを全員――かつて、大戦中のように――殺していた」


 一呼吸おいて、声を軽くする。


「もし魔法をもっと学びたい子がいたら、俺がちゃんとした魔法使いを紹介する」


 


「そんなの、やだ!」


 最初に声を上げたのは小さな女の子だった。


「ブーリアン先生がいい!」


「また、危ない目に遭うぞ……?」


「次は、僕たちが先生を守るから!」


「いや、まだ無理だって……」


「うん。だから、もっと教えてよ!」


「――俺で、いいのか?」


 子供たちが声を揃える。


「先生・が・いい!」


 


 ブーリアンは、メグルとエデューの方を振り返る。


「先生ぶってる姿、しっくりきてますよ」


 メグルが笑いながら言った。


「どっちの姿も本物なら、自分で好きな方を選べばいいじゃないですか」


「……ああ、分かったよ」


 ブーリアンが、観念したように笑う。


「塾はこれからも続けるよ」


 


 岬に歓声が上がった。


 


「そうなると、卒業生はメグルだけになるな」


 ブーリアンが手作りの卒業証書を取り出し、手渡す。


「卒業、おめでとう」


 


 


 


 その日の午後――


 イナーボから出発し、岬が見える最後の地点で、メグルは名残惜しそうに振り返った。


 


 思い出すのは、旅立つ前にネグラと交わした会話。


「ねぇ、メグル。メグルみたいになるには、どうすればいい?」


「うーん……色んな場所に行って、定期的に振り返る。……かな」


「それだけでいいの?」


「本の中身とか、人の顔とかはすぐ忘れちゃうけど……景色だけは、ずっと覚えてるんだ」


「じゃあ、この場所も忘れない?」


「うん。ずっと忘れないよ」


「じゃあ、僕のことは?」


「……思い浮かぶ風景の中に、みんなもいるから。

 ――忘れないよ」


 


 メグルは、もう一度だけ岬に手を振ってから、エデューのあとを追った。

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