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風景から魔力を  作者: hato-ryuji
港街編
23/52

ブーリアン先生

 塾生のネグラがメグルの服を引っ張って声をかける。


「ねぇ、もう攻撃止んだよ。でも先生が――」


 話の途中でネグラは気付く。メグルがあまりの集中で、こちらの声が耳に入っていないことに。


 ネグラは思い切りメグルの体を揺さぶった。


「……終わった……のか?」

 メグルが、ようやく我に返る。


「多分ね。先生がリーダーに何か魔法かけて、そしたら仲間に向かって攻撃しだして。今は先生が、その……何かしようとしてる」


 メグルは「自分が見てくる」と言い残し、ブーリアンのもとへ駆け寄る。


 


 倒れている襲撃者の手下たちは、大やけどを負いながらも命はある。

 ――現時点で、ブーリアンは誰一人、殺してはいなかった。


 


 ブーリアンは、眼前の男――リーダーにとどめを刺すべきか、思案していた。

 先ほど放った魔法、《シンギ・ケッカイ》。精神に介入し、相手を操る青魔法。

 そして今、彼が使おうとしているのは――《ホフル・カウシュ》。


 リーダーの男に、“自分の手で自分を殺させる”。


「《ホフル・カウシュ》」


 男の喉が震え、呪文が紡がれる。

 黒魔法の詠唱が自分自身に向けられる瞬間、メグルが駆けつけてきた。


「そいつを……どうするんですか」


「始末する。見ての通りだ」


「でも、まだ――誰も死んでない」


「だから?」


「だから……」


 メグルは、あのときの言葉を思い出す。


 ――“あいつらの前では、先生でいたいんだ”。


「……まだ、ブーリアン“先生”のままです」


 ブーリアンが、小さく息を吐いた。


 魔法が解除される。


 


 騒動が収束したあと、ブーリアンとメグルは襲撃者たちを拘束し、塾生には帰宅を命じた。


 子供たちが去った後、メグルがブーリアンに問う。


「こいつら……どうしますか?」


「そうだな。ガキの目がないうちに――」


 言い終わらぬうちに、襲撃者たちが魚のようにもがき始める。


 メグルが怪訝な視線を向けると、ブーリアンが小さく笑った。


「……というのは冗談だ。とりあえず、エデュー師匠を呼ぼうか」


 メグルはうなずき、町へと走った。


 


 塾内には、ブーリアンと襲撃者たちだけが残される。


「……そんな目で見るなよ」


 ブーリアンが縛られた男たちに言う。


「どっちが悪役か分からなくなるだろ。せいぜい、あいつに感謝するんだな」


 あごで、メグルが去っていった出口を示す。


「あいつが俺を止めなかったら、お前らは生きちゃいない」


 


 しばらくして、メグルがエデューを連れて戻ってきた。


「大層な荒事が起きていたようだな」


 エデューが教室を見渡しながら言う。


「できる限り、被害は抑えたつもりです」


 ブーリアンが応じる。


 


 その後、ブーリアンは騒動の経緯をエデューに説明しながら、襲撃者たちを町の拘置所へと連れていった。


 道中、エデューが言う。


「メグルも、着実に上達しているようだな。打消し魔法の訓練は、もう切り上げてもいいだろう」


「……そうだな」


 ブーリアンは一瞬、言葉を選んでから続けた。


「明日は卒業式だ。全員のな。――今後、同じことが起こらないとも限らない」

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