ブーリアン先生
塾生のネグラがメグルの服を引っ張って声をかける。
「ねぇ、もう攻撃止んだよ。でも先生が――」
話の途中でネグラは気付く。メグルがあまりの集中で、こちらの声が耳に入っていないことに。
ネグラは思い切りメグルの体を揺さぶった。
「……終わった……のか?」
メグルが、ようやく我に返る。
「多分ね。先生がリーダーに何か魔法かけて、そしたら仲間に向かって攻撃しだして。今は先生が、その……何かしようとしてる」
メグルは「自分が見てくる」と言い残し、ブーリアンのもとへ駆け寄る。
倒れている襲撃者の手下たちは、大やけどを負いながらも命はある。
――現時点で、ブーリアンは誰一人、殺してはいなかった。
ブーリアンは、眼前の男――リーダーにとどめを刺すべきか、思案していた。
先ほど放った魔法、《シンギ・ケッカイ》。精神に介入し、相手を操る青魔法。
そして今、彼が使おうとしているのは――《ホフル・カウシュ》。
リーダーの男に、“自分の手で自分を殺させる”。
「《ホフル・カウシュ》」
男の喉が震え、呪文が紡がれる。
黒魔法の詠唱が自分自身に向けられる瞬間、メグルが駆けつけてきた。
「そいつを……どうするんですか」
「始末する。見ての通りだ」
「でも、まだ――誰も死んでない」
「だから?」
「だから……」
メグルは、あのときの言葉を思い出す。
――“あいつらの前では、先生でいたいんだ”。
「……まだ、ブーリアン“先生”のままです」
ブーリアンが、小さく息を吐いた。
魔法が解除される。
騒動が収束したあと、ブーリアンとメグルは襲撃者たちを拘束し、塾生には帰宅を命じた。
子供たちが去った後、メグルがブーリアンに問う。
「こいつら……どうしますか?」
「そうだな。ガキの目がないうちに――」
言い終わらぬうちに、襲撃者たちが魚のようにもがき始める。
メグルが怪訝な視線を向けると、ブーリアンが小さく笑った。
「……というのは冗談だ。とりあえず、エデュー師匠を呼ぼうか」
メグルはうなずき、町へと走った。
塾内には、ブーリアンと襲撃者たちだけが残される。
「……そんな目で見るなよ」
ブーリアンが縛られた男たちに言う。
「どっちが悪役か分からなくなるだろ。せいぜい、あいつに感謝するんだな」
あごで、メグルが去っていった出口を示す。
「あいつが俺を止めなかったら、お前らは生きちゃいない」
しばらくして、メグルがエデューを連れて戻ってきた。
「大層な荒事が起きていたようだな」
エデューが教室を見渡しながら言う。
「できる限り、被害は抑えたつもりです」
ブーリアンが応じる。
その後、ブーリアンは騒動の経緯をエデューに説明しながら、襲撃者たちを町の拘置所へと連れていった。
道中、エデューが言う。
「メグルも、着実に上達しているようだな。打消し魔法の訓練は、もう切り上げてもいいだろう」
「……そうだな」
ブーリアンは一瞬、言葉を選んでから続けた。
「明日は卒業式だ。全員のな。――今後、同じことが起こらないとも限らない」




