刺すのは干し草だけであってほしい
まぶた越しに太陽を感じる。穏やかな風に吹かれて揺れる芝草がこそばゆい。
メグルが意識を取り戻すと、丘の上に寝転んでいた。
周囲には風車、畑を耕す牛、藁ぶきの屋根……。
「この景色は、走馬灯の最後の……。テレビで見た臨死体験と随分違うな」
辺りを見渡しながらメグルはつぶやく。
周りの風景は、ファンタジー映画やRPGに出てくる農村のようだった。
メグルは丘を下り、民家のある方へ向かっていった。
轍に沿って歩いている途中で道標を発見した。それは今まで見たこともない文字で書かれていた。
メグルは不安を覚えながらも歩き続ける。
石橋を渡り、左右に畑がある道を進む。人影はあるが、畑の奥の方で作業しているため声は届きそうもない。
どことなくメグルを避けている風にも感じられる。
家の庭先で、息子・娘と一緒に革をなめす男がいた。
メグルが声をかけようと近付くと、男は子供たちに家に入るように指示し、近くに立てかけていた鉈を手に取った。
男はメグルに向かって怒鳴る。
話す言語はメグルには理解不能だったが、伝えたいメッセージは予想がついた。
「俺の家族に近寄るな。さもないと叩き切ってやる」
男の怒鳴り声につられてか、周りに村人たちが集まってきた。
各々、彼らなりの武器――たいていは農具――を携えている。
その中の一人がメグルにピッチフォーク――干し草に突き刺すフォークみたいな農具――を突き付けてきた。
刺すのは干し草だけであってほしい。
身を守ろうとして、メグルは両手を突き出す。
その時、メグルは彼らの目に恐怖が浮かんだのを感じ取った。
と同時に、メグルはタックルを受けて地面に倒れこむ。
すぐさま、村の男たちの華麗なチームワークによって、メグルはわら縄で縛られていった。