走馬灯
暁メグルは2時間前に訪れたパーキングエリアの売店に掲載されていたポスターを思い出していた。
赤の太文字ゴシック体で書かれた『シートベルトを締めよう。命は1つ!』のメッセージ。背景にはボンネットから運転席がプレスされたかのようにペシャンコになった軽自動車の写真。
メグルはシートベルトを締めていようが、締めてなかろうがどっちみち死ぬだろう。そう思いながらポスターを眺めていた。
休憩から2時間後、高速道路を降り、見慣れた一般道を乗りなれた軽自動車で進む。メグルの目指す先は自宅である。
右側には公園がある。メグルにとっての1番古い記憶は、母の手を握り、その公園から自宅に戻る風景だった。
公園沿いの道は小中高の通学ルートであり、通勤ルートでもあった。
公園の入り口に差し掛かるちょうどその時、公園からボールが車道に転がってきた。
反射的にメグルはブレーキを思いっきり踏み込む。
いわゆる「かもしれない運転」ってやつだ。子供が飛び出してくるかもしれない。彼はそう思った。
だけども、子供は飛び出してくることはなかった。メグルは5歳ほどの男の子が公園の入り口から左右の安全確認をするのを見た。
最近の子はしっかりしてるなぁ。
そう感心したと同時に、背中に衝撃が走る。
メグルの軽自動車は追突され、その勢いで反対車線に突っ込んだ。目の前に迫ってくるのは4トントラック。
視界がスローモーションになり、今まで見てきた風景が次々とよみがえってくる。
そんな走馬灯の最後に、今まで行ったことのない風景が入りこんできた。
風車、畑を耕す牛、藁ぶきの屋根……。
やがて視界が白くかすんでいく。
メグルの意識はそこで途切れた。