飼い犬になってワンと言われそう ②
帰りの電車で、バッタリ彼女と鉢合わせた。
彼女、口には出さないけど「あっ!」って顔してる。
バツが悪そうにチラチラこっち見てくるけど、お互い車両変えるでもなく、そのまま乗り合ってた。
電車の中で彼女を観察してたけど、初対面の高飛車さは影も形もない。
それどころか、モジモジしてて居心地悪そうな感じが、なんか可愛い。
やっぱり私と同じくらいの女の子だなって思った。
でも、私が見てるのに気づいた瞬間、態度がガラッと変わった。
「ちょっと! 何見てんのよ! キャラ被りをバカにしてるの!?」
この子にとって「キャラ被り」ってどんだけ大罪なんだ?
被ったら親に捨てられるとか、そういうレベルなのか?
そのこだわり、私にはさっぱり分からない。
「い、いや…さっきと違って可愛いなって、つい…」
「えっ…? 何!?」
私の言葉に、彼女、頬を真っ赤に染めた。
褒められるの慣れてないのかな?
やっぱりこの子、どこか可愛い。
明確な理由はないけど、仕草とか雰囲気が妙に可愛いんだよ。
さっきの高飛車な絡み方は何だったんだ?
少し話してみたけど、今はそんな素振り、微塵もない。
同じ駅で降りるって分かったから、カフェに誘ってみた。
駅前のカフェ、彼女も常連っぽかった。
「ここのチーズケーキ、美味しいわよ!」
そう言うわりには、おすすめしてる感じゼロ。
笑顔なんて見せないし、表情は鉄仮面みたいに固い。
分かったのは、よっぽどのことがない限り、その仮面は崩れないってこと。
これが彼女のデフォルトなんだろうな。
損してる生き方してるって、本人は気づいてないのかな?
彼女のこと、色々聞いてみた。
名前は「めぐみ」。お嬢様学校に通う17歳で、私とは学区が違うけど近所に住んでるらしい。
面識はなかったみたい。
「じゃあ、めぐみのおすすめ頼むね」
「め、めぐみって…何!? いきなり馴れ馴れしい…別にいいけど…」
嫌そうじゃない。口尖らせてるけど、耳まで真っ赤だ。
名前で呼ばれるの、珍しいのかな?
鉄仮面からチラッと見える慌てた顔のギャップが、可愛くてたまらない。
「ねえ、連絡先交換しようよ」
「えっ!? れ、連絡先…!?」
「お友達になろうよ!」
「お友達」って言葉に、めぐみ、固まった。
ケーキを口に運ぶ直前で、ボーッとしてる。
「お、お友達…ね…は、はい…」
連絡先を交換した時、彼女の体がプルプル震えてるの、見逃さなかったよ。