飼い犬になってワンと言われそう ①
「キャラが被るのよ! その髪型、変えなさいよ!」
目の前の女、突然何!?
私は呆気に取られた。
見ず知らずの子の第一声がこれって、初めてだ。
頭おかしいのかな?
しかも天下の往来、人通りのど真ん中でだよ。
聞こえないふりしてスルーした。知り合いだと勘違いされるの、まっぴらごめんだから。
「大体、服もピンクって何!? まる被りじゃない!」
でも彼女、めげずに絡んでくる。
周りの視線がチラチラこっちに集まり始めた。
確かにツインテールとピンクの服は被ってるっちゃ被ってる。
でもよく見りゃ、髪型も服も微妙に違うし、「まる被り」は言い過ぎだろ。
そもそも初対面でこんなこと言う奴いるか?
…まさか、向こうは私を知ってるのか?
「ねえ、何!? 私たち初対面だよね?」
「初対面よ! 全然知らない子ね! 知らないからって黙ってられないでしょ!」
うわ、この子、やばいタイプだ。
触っちゃいけない痛い子か、常識知らずの変人か。
私は逃げるように走り出した。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
一心不乱に逃げてるのに、追いかけてきた!
その執着心、ホラーでしかない。
ドレスっぽいワンピース着てるのに、汗だくで追い続けてくる。
服は乱れまくってるのに、止まる気配ゼロ。
「待ちなさーい! 待ちなさーい!」
何!? ここまで追う理由が分からない。
恐怖しか感じないよ。
「待って~…待って~…」
でもさ、そもそも彼女が私に追いつけるわけない。
私、陸上部だよ。スピード上げて引き離せば諦めるだろって思って、ガンガン走った。
遥か後ろで血相変えてる彼女の姿がどんどん小さくなっていく。
「待って…ひぃひぃ…はぁはぁ…」
それでも諦めないんだよ!
息切れして苦しそうなのに、健気な姿がちょっと可哀想にすら見えてきた。
今にも泣きそうな顔、ほんの少し可愛いなって思っちゃった。
何でここまで絡んでくるんだ?
だんだん、彼女の真意が気になり始めた。
ゆっくり立ち止まって、彼女が追いつくのを待った。
もう最初のキレイな姿なんて残ってない。ボロボロだよ。
「どこまで追いかけてくるの?」
「あ、あなたが…逃げるからよ…はぁはぁ…」
逃げるからって、ここまで追う奴いる!?
猫じゃあるまいし、本能で追いかけてたってか?
「私たち、さっき一瞬会っただけの赤の他人だよね? なのに何でそんなに絡んでくるの?」
「絡んでなんかないわ!」
「絡む」が地雷だったのか、急にキレた。
で、今までの何だったのってくらい、あっさり踵を返して去ってった。
私はポカーンと立ち尽くすしかなかった。