私に傘は不要です ④
現場を離れてしばらくすると、彼女はおしゃれな服に着替え直してた。
相変わらず上機嫌で、ずっとニコニコしてる。こんなご機嫌な恵子、初めて見た。
一緒にいて事件に巻き込まれるのも初だったから、知らない一面を覗いた気分だ。
「ねえ…どうやって犯人を眠らせたの？」
さっきからモヤモヤしてた疑問をぶつけてみた。
「え？ ファイナルアタックを当てただけよ…」
彼女、「何言ってんの？」って顔でこっちを見てくる。
「いや、近づかなきゃパンチ当たらないだろ？ 犯人、ショットガン持ってたじゃん」
しかも2回は撃ってる。一発目は威嚇だったとしても、二発目は彼女に向かっててもおかしくない。
動きが遅い恵子がどうやって躱したんだ？ 傷一つ負ってないのもおかしいだろ。なんか特別な秘密があるんじゃないかと睨んでた。
「久志ってば、私の力を勘違いしてるわ…」
彼女、ため息まじりに呟いた。
笑顔が消えて、ちょっと呆れた顔。
「私の力は殴った相手を眠らせるだけじゃないのよ」
僕は唖然。聞き間違いかと思った。
だって、どう見ても殴った相手が寝てただけじゃん。隠し事でもあんの？
「ファイナルアタックはね、物体だけじゃなく、あらゆるものに効くの」
今度は僕が「何！？」って顔してるはず。
彼女、哀れむような目でこっちを見てくる。進学校に通う恵子は僕よりずっと頭いいから、こういう時ちょっと悔しい。
「たとえば、この石が落ちてこないようにするには…」
彼女は道端の小石を拾って、空高く放り投げた。
「この空間の時間を止めたらいいよね。――ファイナルアタック！」
何もない空間に軽くパンチ。ポカッと音がして、その瞬間、空中に上がった小石がピタッと止まった。
その異様な光景、完全にこの世のものじゃない。
「これは石を眠らせたんじゃなくて、この時間の流れを眠らせたのよ」
時間を眠らせるって…何！？ そんなことありえるのか？
呆気にとられてる僕を見て、彼女はクスッと笑ってる。
「要は使い方次第でどうにでもなる能力なの」
何か深い言葉だなって、ちょっと考え込んじゃった。
今日一日で、恵子を見る目が180度変わった。
変な格好をやめて欲しくて呼び出したはずなのに。顔は100点でも、高飛車な態度とコスプレでマイナス10点くらいだと思ってた。
でも彼女、本物のヒーローじゃん。ショボいと思ってた能力も、実はチート級だ。
「そんな力持ってるなら、なんで教えてくれなかったの？」
その言葉に、彼女、明らかにムッとしてた。
「私、前からヒーローだって言ってたよね？」
その言い方、めっちゃ責めてくる。
確かに彼女の言う通り、ちゃんと聞いてなかった僕が悪いかもしれない。
でもさ、常識的に考えて「ヒーローです！」なんて言葉を真に受ける彼氏、いるか？ 能力だって今日初めて見たんだぞ。説明してくれなきゃ、ただの痛い子だと思うしかないだろ。
「あっ！ 危ない！」
その時、彼女が叫んだ瞬間、上空で止まってた小石が落ちてきて、僕の頭にコツンと当たった。
「痛っ…え、落ちてきた？」
「時間が寝てただけだからね。少し経つと動き出すのよ」
賢い彼女、この能力の使い方を完璧に分かってるんだろう。
ショットガンにもビビらなかった自信はここにあった。過去にもっとすごい使い方してたに違いない。
いつの間にか、彼女を見る目には尊敬が混じってた。
