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私に傘は不要です ③

街へ戻る途中、僕は彼女のことを考えていた。

今まで変なコスプレにハマった痛い子だと思ってたけど、まさか本物のヒーローだったなんて。

でも、普段ヒーローっぽいことしてる姿なんて見たことない。あの「眠らせる能力」っていつどこで手に入れたんだ?

それにしても、パンチで相手を眠らせるだけって…。空を飛ぶでもなく、超速で走るでもなく、荒くれ者と殴り合わなきゃ使い物にならない。それだって、力でねじ伏せられたら終わりだろ。

「ふふふ~ん♪」

なのに彼女、めっちゃ上機嫌だ。

普段笑顔なんて見せないのに、さっきからずっとニヤニヤしてる。決めポーズが決まったのがそんなに嬉しいのか?

「今日から久志は下僕1号よ!」

また訳わかんないこと言い出した。

ここで否定したら鬼の形相でキレられるの目に見えてるから、軽く聞き流すことにした。

「そうですか…下僕1号ですか…」

でも「下僕」って発想、どこから出てきたんだ? ちゃんと意味分かって言ってるのか? しかも「1号」って、ご丁寧にナンバリングまでしてくるし。2号、3号もそのうち作る気満々なんだろうな。

「キャー! 助けてー!」

その時、どこからか叫び声が聞こえてきた。

声の方向を見ると、銀行で強盗が人質を盾に立てこもってる。ショットガンを構えた犯人が、銃口を人質に突きつけて威嚇してるじゃないか。

彼女はそそくさと服を脱ぎ始めた。先ほどのんびりしてたのに、今度はちょっと慌ててるみたい。でも、脱いだ服はちゃんと畳んでる。

全部脱ぎ終わり、全身タイツと赤いマントのヒーロー姿になると、畳んだ服を僕に押し付けてきた。

いやいや、こんな状況で出てって何ができるんだよ。相手はショットガン持ってるぞ。遠距離じゃパンチ届かないし、当たらなきゃ眠らないだろ。

でも彼女、余裕の表情だ。涼しげな目でうっすら笑ってて、妙にカッコいい雰囲気すら漂ってる。

「私が来たからにはもう大丈夫よ!」

躊躇なく銀行へ向かう変な格好の女を、野次馬たちが怪訝な顔で見つめてる。

「何してんだ?」って感じでポカーンとしてるのも無理ない。彼女はそんな視線を無視して、堂々と銀行に踏み込んでいった。

「何だ、お前は!」

中から犯人らしい男の怒鳴り声が響いた。

直後、バンッ!とショットガンの銃声が鳴り響き、人質の「キャー!」って悲鳴がこだまする。

野次馬たちは慌てて後ずさり。まだ警察も来てないし、現場を仕切る奴なんていない。

もう一発、バンッ!と銃声が響くと、野次馬はパニックになって周囲は地獄絵図だ。

「わぁーー!」

その時、銀行の中から歓声が沸き上がった。

安堵と喜びが混じった声から、中で何かが解決したのは一目瞭然。

先頭で出てきた彼女は、髪をかき上げて「ふふん…」って顔で颯爽と歩いてくる。

その後ろから、人質だった銀行員二人が、寝てる覆面の男の首根っこを引っ張って出てきた。

涙ぐむ女子行員、乱れたスーツの男――みんな安堵の表情だ。

「この世の悪はキッチリ型にハメるわよ!」

彼女はまたアニメっぽい決めポーズ。

それを見た周囲は一瞬ポカーン。さっきまでの感動ムードが急にしらけちゃった感じ。

でも彼女は「決まった!」って感じで、満面の笑みだ。

「さあ! 騒ぎになる前に逃げるわよ!」

僕に近づくと、彼女は手を引いて走り出した。

しらけムードの野次馬たちは、呆然とその背中を見てるだけ。

でもさ、銀行の中で何が起こったんだ? ショットガン相手にどうやって勝ったんだよ。

単に眠らせる以外に何かあるんじゃないか――僕は彼女の能力に、ちょっと疑いの目を向け始めていた。



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