一発逆転 ①
「行けーーっ 3-5-7! 3-5-7!」
競馬場のスタンドで、女の汚れたコートがひらめく。彼女の叫び声が、群衆のざわめきを切り裂いた。初めて彼女を見た瞬間、背筋が凍った。
身なりはどう見てもホームレスだ。ぼさぼさの髪、泥だらけの靴、ちぎれそうなシャツ。それでも、よく見ると彼女の顔立ちは驚くほど整っていた。乱れた髪の隙間から覗く目は、鋭く光っている。こんな場所にいるのが不釣り合いなほど、彼女は美しかった。
私と同じ年頃の女が、どうしてここまで落ちぶれたのか。胸が締め付けられる思いだった。
「行けー そのまま! そのまま!」
どんな過去が彼女をここに追いやったのだろう。私は、彼女のことをもっと知りたくなった。
「あっ……」
突然、彼女の顔から力が抜けた。悲しげに天を仰ぐその姿は、まるで消えてしまいそうなほど儚げだった。
「ハーイ」
思わず声をかけていた。
「何だよ、お前……」
彼女は私を睨み、怪訝な顔をした。そして、値踏みするように私の服や靴をじろじろ見た。
「金……金貸してくれよ」
初めて会った人間に、彼女は平然とそう言った。私は言葉を失った。あまりの衝撃に、頭が真っ白になった。
「ハハハ……」
笑ってはみたものの、半ば呆れていた。想像以上にぶっ飛んだ人間だった。
「あなた、ホームレスなの?」
「悪いか? 私、今夜から道端の草でも食わなきゃなんねえんだよ。頼むから金貸してくれ」
聞き間違いかと思った。草を食べる? 本当に道端の雑草を食べるつもりなのか? 私は判断に迷った。
「それ……食べられるの?」
「葉っぱのこと? 食べられるかどうかなんて関係ねえ。食わなきゃ死ぬだろ!」
私の聞き間違いじゃなかった。彼女は生きるために必死だった。
「だから、な? 金貸してくれよ……今度こそ当たる気がすんだ」
彼女は借りた金でまた賭けるつもりだった。私はてっきり、生活のために金を借りたいのだと思っていた。生きるために必死なんじゃなかったのか? 開いた口が塞がらなかった。
「まあ、そうだよな。見ず知らずの奴に金なんか貸さねえよな」
彼女の口から出たのは、意外なほど冷静な言葉だった。この世の中が甘くないことを、彼女はちゃんとわかっていた。
「じゃあさ、私のパンツ買わねえ? おっさんなら高く買ってくれるけどよ、女のアンタなら話が早いだろ?」
わけがわからない女だった。世の中をわかってるのか、舐めてるのか、どっちなんだ? それに、私が女のパンツを買うと本気で思ってるのか?
「パ、パンツって……だったらおじさんに直接売れば?」
「嫌だよ、気持ち悪ぃ! アンタだから売るんだよ!」
なんてわがままな理屈だ。あまりの衝撃に、目の前がクラクラした。
「わかったよ……」
私は渋々財布を取り出した。彼女がこの後どんな行動に出るのか、なんだか見てみたくてたまらなかった。