知らぬが仏④
私は今までの経緯を南に説明した。
「えーっ! 13歳なんですか⁈ 13歳でその太々しさ?」
「うるせえよ! 生きていくためには図太くならなきゃいけなかったんだよ」
話をすると、南は良い奴だった。
学校にも行っていない、世間からはみ出した私を偏見の目で見なかった。
そして、婆さんがいなくなって大騒ぎになってるであろう老人ホームにも連絡しないでいてくれた。
「それで、これからどうするんですか?」
「とりあえず、婆さんが行きたがってる札幌に行ってみるよ」
「貴女がそこまでする理由なんて何もないですよね⁈」
「なんかなぁ…ほっとけねえんだよ」
南は一瞬、ハッとした表情を見せたが、少しだけ押し黙った。
そして、僅かな沈黙の後、にっこりと笑う。
「雑な言葉遣いと真逆で良い人なんですね! 考え方も大人びてるし!」
「うるせえ! ほっとけ!」
南は年の若い私をからかっていた。
言葉を発する表情の隅々に、悪戯な笑顔を覗かせていた。
でも、私は気にしてなかった。南の人柄は十分に把握していた。
そして、南は自分の知ってる婆さんのことを語った。
婆さんが老人ホームに入ったのは3年前のことだった。
旦那に先立たれて一人身になり、自ら老人ホームに入ることを選んでいた。
3年間、仲間も作らず、いつも独りぼっちで過ごしていた。
家族もいないから、誰も面会に来ることもなく、いつも遠くを見ながら黄昏れていた。
毎日をぼんやりと過ごし、その様子は幸せとは程遠かった。
生き甲斐のない毎日に、婆さんは何を希望にしていたのだろうか?
ただ、私には気になることが一つだけあった。
婆さんに家族の存在を尋ねた時、息子がいると言っていた。
あれは婆さんの記憶の改変なのだろうか?
「ホームに来る以前のことは詳しく知りません。桐島のお婆ちゃんは自分のことをあまり話しませんでした」
「南…この婆さんのことはしばらく私に預けちゃくれないかい?」
「わかりました。貴女になら任せてもいいでしょう。極道の妻みたいな貫禄あるし…」
「誰が極道の妻だ 黙れ」
「あはははははは…」
南が良い奴で良かったと、私は心の底から思っていた。
でも、南は私に任せておけば安心と言わんばかりに、急にバカンスモードに変身する。
私たちの席に身を寄せて散々飲み食いした後、酔っ払いながら青森で降りていった。