飼い犬になってワンと言われそう ⑤
めぐみの家は、高層マンションの上の方だった。
でも、怒り狂ってる私に、感心してる余裕なんてない。
ドアが開くと、パジャマ姿のめぐみがお出迎え。
生気のない顔に目の下にはクマができてる。
「いらっしゃい…こんな格好でごめんね…」
「病気なら連絡してよ! 心配するじゃん!」
いつもと逆だ。
私がまくし立てると、めぐみ、完全に圧倒されてる。
「ううっ…ごめん…」
小さな声でポツリ。
申し訳なさそうに伏し目がちでこっち見てる。
怒りが冷めて我に返った時、気づいた。
病気なのに、めぐみ、一人でいる。
お母さん、仕事か何か?
「看病してくれる人、いないの?」
「私、一人暮らしなの!」
何!? そんなことで啖呵切るの!?
「一人暮らしなら、なおさら早く連絡してよ!」
「ううっ…」
啖呵切ったくせに、しかると子犬みたいにシュンとする。
呆れつつも、ちょっと可愛い。
「まず、食べたいもの言いなさい! 足りないもの買ってくるから!」
「り、リンゴ…」
「リンゴね! 水枕もないみたいだし、買ってくるよ。待ってて!」
「は、はい…」
子供扱いして寝かしつけた。
買い物から戻ると、めぐみ、大人しく寝てた。
「ただいま、買ってきたよ」
私の姿見ると、起きようとする。
「今からご飯作るから、ちゃんと寝てなさい」
水枕用意して寝かしつけると、お粥の準備に取りかかった。
うち、裕福じゃないから、母ちゃんいない時は私が料理する。
手慣れたもんだよ。
「台所、借りるね」
「うん…」
めぐみ、妙に素直。
病気で心細いのもあるだろうけど、それだけじゃない。
ペットの犬みたいに従順だ。
キッチン、使った形跡ないくらいキレイ。
でもゴミ箱見たら、カップラーメンの容器が山盛り。
具合悪いのにこんな食生活!?
腹立たしいけど、一人暮らしなら仕方ないのかな。
親、心配しないんだろうか?
鉄仮面の秘密、もしかして育ちに関係あるのかも。
「できたよ~お粥だから食べやすいよ。リンゴも剥いたからね」
めぐみ、用意された食事に目を見開いて、しばらくボーッと見つめてる。
「あ、ありがと…うぐっ…うぐっ…」
そしたら、ボロボロ泣き始めた。
くしゃくしゃな目から大粒の涙が溢れてる。
「こら、泣かないでよ! 具合悪くなるよ」
「だって…こんな優しく…うぐっ…うぐっ…」
こんなことされたことないって顔だ。
「友達じゃん!」
「う、うん…ありがと…うぐっ…うぐっ…」
「よし、よし…」
いつまでも泣くめぐみを、そっと抱きしめた。