飼い犬になってワンと言われそう ④
私は気分転換に、めぐみを映画館に連れてきた。
めぐみ、映画館に慣れてないのか、キョロキョロしてちょっとワクワクしてるみたい。
普段どんな暮らししてんだろって、ちょっと心配になった。
映画が始まると、めぐみは息をのんでスクリーンに釘付け。
ストーリーに合わせて、いろんな顔を見せる。
笑ったり、泣いたり、驚いたり――普段絶対見せない表情が次々出てくる。
鉄仮面って、きっと自分を守るための最強アイテムなんだろうな。
でも、それで人を遠ざけて、敵まで作っちゃってるって、分かってるのかな?
心、すり減ってないか?
鉄仮面の理由は分からない。
何か抜き差しならない事情があったのかもしれない。
でも、ありのままを見せないって、すげえ精神力いるよ。
ガチガチに固めた心、いつか崩れちゃうんじゃないかって気がした。
私、めぐみの心に少しでも安らぎを与えたかった。
「楽しかったわ…」
映画が終わり、めぐみの鉄仮面が復活。
「良かった~」
私がニコッと笑うと、彼女の顔から力が抜けた。
「ありがと…」
感謝を呟くめぐみに、「私の前では素でいて欲しいな」って願った。
それから数日、通学路でめぐみの姿を見なくなった。
心配はしてたけど、電話するほどでもないかなって。
めぐみだって私の連絡先知ってるし、困ったら連絡来るだろって思ってた。
そんな時、リボンの学級委員長を見かけた。
「あ、こんにちは」
「あら、あんた…」
委員長、私を見ても特に驚くでもなく、ボーッとしてる。
「最近、めぐみ見ないんですけど、何かあったんですか?」
「めぐみさんなら、ずっと学校休んでるわよ」
「えっ!? どうしたんですか?」
「さあ、詳しいことは知らないわ」
委員長、めぐみに興味ゼロっぽい。
同じクラスでも、手のかかる子には関わらないタイプなのか?
「それより…身勝手なめぐみに友達がいたなんてね」
鼻でクスッと笑われた気がした。
めぐみをバカにしてる感じに、めっちゃ腹立った。
「勘違いしないでください! めぐみ、身勝手なんかじゃないです!」
私、珍しくキレてた。
おっとり系の私が怒るの、委員長、どう思ったんだろ?
「まあ…そうだったのね。それじゃあ、これで」
ちょっと驚いた顔したけど、すぐ冷静装って去ってった。
すぐめぐみに電話した。
具合悪くて寝込んでるって。
「住所教えなさいよ!」
今日はホント腹立つ日だ。
めぐみの家に向かう私の顔、鬼みたいだったに違いない。