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00.12-

働くといっても、アルバイト。

誰でもできる簡単な仕事。


同じような境遇の仲間、数人と汗を流す日々が始まった。


手短に挨拶を済ませただけで即採用。1ヶ月ほどの試用期間といったところだろう。


生まれてこのかた、働くということとは無縁だったから、仕事をするという実感を改めて知ることになる。


時間どおりに来て、準備をして、仕事に取りかかる。

迷惑は掛けないようにと気を付けながら、分からないことは分かるまで聞いて、どうにかこうにか仕事に慣れようと頑張った。


望んでやる仕事ではない。正直楽しいとも思えない。でも、違和感なく受け入れられた。

漠然と何かが変わるきっかけにはなるかも。そんな淡い期待も抱かせた。



仕事は単純作業の連続だ。

頭は使わず、とにかく体を使う。

自分とは縁遠いと思っていた仕事だったが、ついていけないことはない。


運動は好きではないが、一人でできる作業は嫌いじゃなかった。

反面、周りの人たちと打ち解けるのは苦手だった。


最初は気にかけてくれた人たちも、少しずつ離れていく。

一人でも出来たから、別にどうということはなかったけれど、並んで一緒に働く人たちは少しずつ輪の中に入っていくような気がして。


だから、どうするということはなく、ただ黙々と仕事に打ち込んだ。



仕事はすぐに慣れた。

慣れない勉学と仕事の掛け持ちという生活にも順応できたかに思えたが……できていなかった。


卒業に向けた課題の真っ最中で、休日返上の課題製作が重なる。特別忙しいわけではなかったが、それ故に仕事の後はうとうとすることも。


世間はクリスマスだとか、お正月だと浮わつく横で、家と無機質な職場や学校を往復する日々。

昼も夜も家を空けるような生活だった。


普段通学くらいでしか体を動かさない。そんななまった体には良い刺激になったが、心は休まらなかった。


考えないようにはした。

たが、気づいた時には、

この先どうなるんだろう…

そんなことばかり頭に浮かんだ。


プライベートの時間はもっぱらゲームに明け暮れて、その時だけは気が紛れた。

どんなに誤魔化しても、誤魔化しきれないことはある。


仕事でどうしてもできないことがあったし、防げない失敗もあった。

周りの人は何も言わないが、きっと目をつむれるものではないと思う。


最後まで克服することはなく、平行線を辿った。

発見も、手応えも、何かを得たという感触も薄いまま、お試し期間は終わった。

残ったのは試用にしては奮発された給金と、不馴れな作業から来る体の痛みだった。


もしかしたら、何かが変わるかも。

そんな淡い期待は儚く消えた。

何も変わらないまま、正月を迎えて、そして年を越す。


本当なら今頃期待と不安入り交じりながら新年を迎えたのだろう。

周りの仲間たちは人生の門出に決意を新たにしたようだった。


僕はというと希望すら持てないままで。


とある寒い日の朝。

合格ならこれからもよろしくと声を掛けられるのだろうが、僕にはその声を掛けてもらえなかった。


もう慣れていたし、自分としてもこの結果は妥当だと思った。

そもそも、このまま仕事を続けられるモチベーションも無かった。


もはや、悔し涙も、悲しい涙も流れなかった。


居場所を見つけなきゃいけないのに、自分が居るべき場所が見つからなかった。


最後の最後、最終手段で仕事を斡旋してくれる人を紹介された。


普段は来ることのない校舎の片隅。

一室の扉を開ける。


一見すると教室なのだが、人数分の椅子が真ん中に置かれただけの異様な部屋だった。

その人はすでに居て、そこで初めて相対する。


面接スタイルの打ち合わせではあったが、面接官のような冷たさは無く。

その辺の先生と同じようなスタイルで自分のことを訊いてくれた。


これまでは一人で、孤独にやってきた。一緒に探してくれる人の存在は有りがたかった。

でも、これからもまたあのお試し期間が続くと思うと、決して前向きには考えられなくて。


迎えた学生最後の日。

誰もが晴れやかな衣装と晴れやかな表情で旅立っていく。


僕も旅立つのだ。

でも、旅立つ先はとうとう見つからなかった。


自分が悪い。そう分かっていても、認めたくなくて、この期に及んでつまらない信念を捨てきれずに。


何にもない明日へ向かう僕を、周りの人々はどう見届けたのだろう。


きっと、取り付く島はあったはずだ。

差しのべられようとした手もあったはずだ。


それに自分から近づいていくこともせず、誰かのせいにして、僕は逃げた。


残された希望はある。目の前にある。

でも、向き合うことができなくなってしまった。


いや、最初から向き合って無かったのかもしれない。


今になってそんなことに気づいた。

何を今さら。

そう自分に投げ掛けて、現実に背を向けた。


その時、最低で、最悪な日々は始まったのだ―






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