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ゴーストパニック


「そうなったらそうなったで考えようぜ。ロエテムも特に困ってないだろうしな」


 クレイの言葉で俺はなんとなくロエテムを見ると、ロエテムは「何の事?」と言わんばかりに首を傾げていた。

 今思ったけどロエテムは呪いは大丈夫だったのかな。

 そんな事を思っていると、クレイは続けて質問をしてくる。


「ちなみに数字はみんな一緒か?オレは65だ」


 慌てて自分の数字を確認した。


「俺は73」

「67」

「同じく」

「63だ」

「60です…」


 みんなもだいたい同じくらいだけど、みんなの方が早い。何を基準にしているのか分からないが、特にノクターンの数字が一番早い60なのが気になる。

 下手したらノクターンの補助無しになるのか?

 その時、「あの…」とジルハが話し出した。


「もうバレちゃったことは仕方ないので、この迷宮攻略僕に任せて貰えますか?」

「何か策でもあるのか?」


 策というか、と、ジルハが少しだけ言い淀む。言葉を選んだというのが正しいか。


「さっきから妙な匂いがするんですよ。それを辿ればディラさんの目も合わせれば目的地に着けると思います」


 と、俺に視線を寄越しながら言った。

 どうやら俺に配慮したらしい。そんなことしなくていいのに。

 ジルハの提案にクレイが納得した。


「そうなのか。確かにそっちの方が効率的だな。ディラ、それでいいか?」

「全然いいよ。むしろ助かるし」


 というか、絶対に俺一人では辿り着ける気がしない。


「よし、じゃあ距離測定と位置関係の担当はディラ。正しい道の攻略をジルハが担当でいくぞ」


 そうして迷宮攻略の配置換えを完了し、改めて迷宮をジルハ先頭で進んでいく。


 フンフンと時折ジルハが空気中の匂いを嗅ぎながら分かれ道を迷い無く進んでいった。

 自分が獣人だとカミングアウトしたことによって開き直ったらしい。堂々と獣人らしく振る舞っている。

 その間俺はボスとの距離を測りながらモンスターの警戒に努めていると、ようやくジルハの言っているであろう“妙な匂い”に気が付いた。

 まるで果物が腐ったみたいな変に甘い匂いだ。


「…ん?」と、アスティベラードが後ろのクロイノを振り返った。


「どうしたの?」


 訊ねると、アスティベラードが苦虫を噛み潰したような顔で答える。


「クロイノがなにやら興奮しとる。良くないものが居るぞ」

「良くないもの?」


 なんだろうか。すると、突然廊下の奥の方から冷気が流れ込んできた。地面を這う冷気がまるで背筋を這い上がってきたかのように、ゾワゾワと嫌な鳥肌が立つ。

 嫌な空気で、思わず腕を擦る。


「え、なに?」

「急に冷えてきたな」

「誰かが魔法でも使ったんですかね」


 しかし、そんな嫌な空気にクレイとジルハは気が付いていないみたいだった。

 気付いているのは俺とアスティベラード、そして──


「ああ…、帰りたい…」


 泣きそうな顔になっているノクターンだけだった。


「うわっ!なんだこれ。床が凍ってんぞ!」


 ドルチェットが滑り掛けたらしい。

 気が付けばバリバリと靴が氷を踏みつけ、靴底が氷のせいでくっつく。

 それに良く見てみれば、床や壁に霜がついていた。

 一体何処からと前方を千里眼で見てみると、人のようなものが見えて声をあげる。


「人が倒れてる!」


 急いで倒れた人の元へと向かうと、恐怖に目を見開いたまま生き絶えているパーティーに遭遇した。


「むごいな」


 クレイが言いながら祈る。

 それを傍目に俺はこのパーティーを観察した。

 みんなで固まって暖を取ろうとして、そのまま亡くなった様子だった。体は完全に硬直していたが、それはどちらかと言えば凍り付いたのが正しいようだ。霜だけでなく、髪の毛やら装備が完全に凍っていたのだ。

 まるで凍死したみたい──

 そこまで考えて、俺は少し思案した。

 ここは少し寒いけど、凍死するような事はなさそうに見える。とするならば考えられる可能性は絞られる。

 罠に掛かったか、そういう系のモンスターに負けたか。


 クレイも同じことを考えたらしい。

 祈りを終えたクレイが各々指示を出す。


「ノクターン」


 ノクターンが魔法陣を調べる。


「罠のような魔法陣はありません…」

「ディラ」


 こちらも辺りを確認する。

 レーダーにも千里眼にも確認は出来ない。


「モンスターの気配はないよ」

「ジルハ」

「罠らしき音も匂いも無いです。相変わらず変な匂いはありますけど」


 その時だ。

 アスティベラードがハッとしたように背後を振り返る。


「! くるぞ!」


 何がと訊ねる前に通路の灯りが乱れて激しく点滅し、大多数の光が消えてしまった。暗くなった廊下のあちらこちらから小さく嘲笑う声が聞こえてくる。

 誰もなにも言わずに武器を構える。


 ミシン、ピキと凍り付く音が静かな通路に鳴り響く。

 再び光が激しく乱れて、更に暗くなってしまった。

 まさかこれ…、と俺は冷や汗を流す。

 ホラーあるある定番に咄嗟に塩を撒かないとと日本人精神が顔を覗かしたが、今持っているのは岩塩だ。

 投げるしかない。勿体無い嫌だ。


 そんな事をぐちゃぐちゃと考えていると、暗がりから青白い人の影が浮かび上がってきた。

 教えて貰わなくたって分かる。あれは幽r──


「ゴースト!!!??」


 ドルチェットの声を合図に、あははははは!!!と狂ったように笑いながらゴーストが襲い掛かってきた。

 ゴーストの単語でゲームにおけるゴーストの特徴が思い起こされる。ゴーストには物理攻撃が効かない。訊くのは聖水などの類いだけど、そんなの持っていな──


「我の行く手を照らせ…、イアウォーク・オニアルーク…!」


 ノクターンが光の玉を生み出し、ゴーストへ向けて発射した。

 ゴーストが眩しそうに顔をしかめるのを見て、おや?と思う。

 すかさずアスティベラードが前へ出て、思い切り空気を吸い込んだのを見て、俺は急いで耳を塞いだ。


「 失せよ!! 」


 アスティベラードがゴーストを怒鳴りつけると、ゴーストが怯えた様子を見せて消えた


 今、寺育ちのティーさんみたいなことした?


「ふん!相変わらず気持ちの悪い!」

「前から思ってたけど、お前スゲーな」


 ドルチェットがキラキラした目でアスティベラードを見ていた。勿論、俺もだけど。


「対応が早かったな。ゴーストには慣れてるのか?」

「そこそこ、な」

「…その…、色々ありまして…はい…」


 2人の過去が気になり始めた。




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