マーリンガンの掌の上
ドルチェットが酷い。
まぁドルチェットが俺に対して扱いが雑なのは何時もの事だとして、一番重要なリーダーであるクレイはなるほどと言いながら納得していた。
「いいなそれ。でもこの作戦にはクロイノの協力が必須なんだが」
クレイがアスティベラードへと向き訊ねた。
いくらリーダーであってもクロイノの主人はアスティベラードだ。
「どうだ?やってもらえそう??」
「ふむ」
アスティベラードがクロイノを撫でると、まるで猫のようにスリスリと手に頭を擦り付けた。もし喉が鳴るのならば爆音を轟かせていただろう。
「やってやっても良いと言っておる。感謝するが良い」
クロイノは心が広い。
ふと視線を感じて俺がクロイノを見ると、パタンと尻尾を一振りした。可愛いな。
「助かる。それじゃあ早速だけど頼んだ」
クレイがそう言えば、クロイノはアスティベラードの元から離れて隙間へとやってきた。ふんふんと何かを嗅ぐような仕草をしてから、ゆっくりと、けれど確実に隙間に潜り込んでいく。
しばらくすると向こう側からジルハの悲鳴が上がった。
「言い悲鳴だな」
と、ドルチェットが感想を漏らした。
そういえばジルハにはこの作戦伝えてなかったな。
可愛そうなことをした。
さて、とクレイが俺を振り替える。
「では言い出しっぺのディラからよろしく」
「へーい」
見た目は黒い線と成り果てた隙間を見る。
綺麗に収まりすぎてどこが顔なのかも分からないが、本当にクロイノはチート存在だと再認識させられる。
「ではよろしくお願いしまーす」
よいしょとクロイノが収まっているだろう場所へと向かって頭を突き出すと、わずかな抵抗、それが抜けると例の不思議な空間へと躍り出た。
薄暗い岩のトンネルだ。重くねっとりとした物体に漂う感覚が、まるで魚になったような気分にさせる。
(よっと)
上下左右を岩に囲まれているのに軽く岩を蹴るだけでスルスルと進め、ジルハの言っていた匍匐前進ゾーンも泳ぐように勢いをつければあっという間に抜けた。
「どわっ!?」
訂正しよう。デュルンとクロイノの体から滑り落ちた。
勢いをつけすぎたらしい。
出口に段差があったせいで、でんぐり返しをしてしまい、思い切りお尻で着地を果たした。目の前にはジルハが驚いた表情をしていた。
もしかして見られた?
「一回転しましたね」
「やっぱり見られてたぁー……恥ずかしいー……」
是非とも忘れてもらいたい。
羞恥心で手で顔を覆いながらその場を退いた。
「みんなには言わないでね……」
「じゃあ一つ貸しですね」
ジルハはにこりとした笑顔だった。
こんな事で貸しを作りたくなかった。
というか、君、優しそうに見えて一番腹黒だったりします?
次々に皆到着したが、残念ながら皆でんぐり返しはしなかった。
おかしい、何故俺だけあんな感じになったんだろうと考えてみたが、結局のところ俺の通過の仕方が悪かったんだろう。
最後のロエテムなんかかっこ良く、こう、かっこいい人がするような寝そべりかたで綺麗に足から登場してきて、ちょっと嫉妬した。
役目が終わり這い出てきたクロイノを俺とアスティベラードで撫でまくった。
「やっぱりクロイノは凄いな」
「であろう!もっと褒めよ!」
ふんぞり変えるクロイノを思い付く限りの言葉で賛美していると、何故かアスティベラードが誇らしげにしていた。
わからなくはない。
その後みんなで偉いぞ偉いぞとクロイノを褒め称えてから、再び探索を開始した。
「なんだか随分としっかりとした造りになったな。もしかしてここが例の通路か?」
クレイが辺りを見回しながらそう言ったので、俺も辺りを見回してみる。
確かに潜り抜けた先はさっきの通路と違って随分と雰囲気が違う。
レンガが敷き詰められ、だいぶ古いがしっかりとした造りになっていた。まさに迷宮と言わんばかりの光景だ。しかも洞窟に比べて明るい。
「火じゃないんだな、あれ」
そこで俺は気が付いた。
壁の天井近くに燭台が等間隔で設置されており、その先端からオレンジに光る玉が浮かんでいた。
魔法具だろうか。
「にしてもよぉー!」
と、ドルチェットが話を切り出した。
「こんなに都合よく辿り着くか?さっきの穴なんか、先に入っていった奴らが潜り抜けられるとは考えられねーんだが?」
「確かに。もしかしたらもう少し先に合流できる地点があったかもしれませんね」
「え、じゃあ道間違えたってこと?」
ドルチェットとジルハの会話で俺は段々と不安になってきた。
もしかしたら正しい道があったって事なのかと。
しかしそんな不安はクレイが一蹴してくれた。
「いや、多分オレ達にとっては此処が正解だ。マーリンガンの地図にはさっきの道から先は描かれてなかったしな」
「まあ、確かにそうか…?」
「もしかしたらクロイノがいること前提で作ってくれたのかもしれないしな」
なるほど、と俺は納得した。クロイノが居たからこそ、あんな強引なショートカットができるようになった、と。
クレイのいう通り、地図ではあのまま真っ直ぐに行くことは出来なかった。道が描かれていなかったからだ。
そういえば、地図はちゃんと変化あるのかな。
服の中に畳んで仕舞っていた地図を取り出して確認してみると、
地図での現在地が変わっていた。枝分かれした“道の続きがある方”へと進んでいたのだ。
やっぱり正解だったんだな。
それにしても……。
「どうした?変な顔して」
「いや、なんでマーリンガンこんな道知ってるんだろうなぁーって…」
「マーリンガンってあんな姿だけど、結構なジジイだしな。来たことくらいあるんじゃね?」
ドルチェットの言葉で、頭の中に時たま腰がいたい膝が痛いと嘆くマーリンガンが再生された。
確かに爺だったわあの人。
「それもそうか」




