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宇宙猫と杯


 部屋に戻ると部屋が宇宙空間状態だった。


「わあ!」


 扉を開けると真っ黒な壁が立ち塞がっていた。しかもその黒い物体の中にキラキラと光るものが見えていて、さながら宇宙のようだ。おそらくこれはクロイノだろうというのは安易に想像できた。

 クロイノの形と目の前の状態を踏まえて、これが宇宙猫かー!と1人納得していると、アスティベラードが宇宙クロイノの中から現れた。


「おお、戻ったか」

「何してるのこれ」


 これ、とクロイノを指差す。


「ふむ、実はな──」


 先ほどの戦闘での激しい揺れでノクターンとドルチェットがあまりにもひどい状態になってしまったので、クロイノの中で魔力を補填しているらしい。


「貴様も入ってみるか?」

「いいの?お邪魔しまーす」


 アスティベラードの後に続いて入ってみると暖かい。しかもちょうどよい暗さで眠たくなった。

 二人も安らかに寝息を立てている。

 ふと、ジルハがいない事に気が付いた。何処かに出掛けているのか。


「今は私が中にいるゆえ、油断しても取り込まれる事はない。なんなら軽く昼寝でもしていくか?」

「じゃあお言葉に甘えて」


 クロイノの中は、まるで水の中のように体が軽くなる。

 浮くようにして自分のハンモックへと横になると、あっという間に睡魔がやってきた。



 この後、お昼を持ってきたクレイが宇宙空間に驚いていたのは言うまでもない。









「スッゴいなあれ!船酔いが良くなった!」

「信じられないくらい体調が良いです…」


 クロイノの中で回復した二人は船酔いが治っていた。

 もしやクロイノ、医療回復のスキルでも所持しているのか。

 クロイノにスキルが存在しているのはさておき、俺の中でクロイノの株が上がった。未だにクロイノがなんなのか分からないが、味方で良かったと心底思う。


 みんな揃っての夕飯を取りながら、クレイが現在の状況の説明をしてくれた。


「ズキーヴチの縄張りを迂回するから、到着までの日にちが延びた」


 との事だった。

 このまま真っ直ぐ進めれば3日で到達できたのだが、大きく迂回するせいで後3~4日掛かるらしい。

 申し訳無さげなクレイに俺は言う。


「仕方ないよそれは。気嚢に穴開けられたら終わりだし」


 時間よりも命のが大事である。

 それにドルチェットも同意した。


「だな。それに自分らはクロイノのお陰で船酔いが治ったし、気に掛けてるんだったらもう大丈夫だぜ。な!ノクターン!」

「はい…」

「そう言って貰えると助かる」


 和やかな雰囲気になったところで、突然扉が開いた。

 何だと振り返ると、そこにいたのはオルゾアだった。


「おい、雑用」

「へい!」


 雑用とは、俺の事である。何か仕事があるのかと俺は反射的にオルゾアに返事をした。


「ちょっといいか?船長が呼んでる」

「……え」


 俺は頭を高速で回転させた。

 思い返しても呼び出しをされる謂れがない。それとも無自覚に何かをしてしまったのか。空に放り出されるのはごめんだと、いつも以上にミスをしないよう頑張っていたはずだ。ミスもしてないと思う。

 それでも呼び出しをされると言うことに戸惑いを隠せずに思わず口から「空は嫌です……」と言葉が溢れた。


「?」


 しかしオルゾアは頭にはてなを浮かべると、「早くしないと俺が怒られる」と急かす。仕方がないので覚悟を決めて付いていく。クレイが付いてこようとしてくれたのだが、付いてこなくて良いと言われてしまっていて、クレイの心配な視線を背に感じながら、俺は大人しくオルゾアに付いていった。





 着いたのは船長の部屋だった。


「船長、呼んできました!」と、オルゾアが声を掛けるとすぐに返事が来た。


「よく来た。入りな」


「さ、入れ」とオルゾアに促され、俺は落とされるのではないかとビクビクしながら扉を開けた。


「お邪魔しまーす…」

「待ってたよ」


 部屋の中央で、ダッチラーノが椅子に腰かけていた。

 机には栓の抜かれた瓶とグラスが2つ。更にはこじんまりとだが、果物があった。

 ダッチラーノが向かい側の席を示す。


「そこに座りな」


 唾を飲み込み俺はダッチラーノの向かい側に腰掛けた。心臓が早鐘を打っている。

「あの……」と、何の用なのかを訊ねようとした時、ダッチラーノがグラスに飲み物を注ぎ入れた。

 ブドウジュースのような色だった。

 注ぎながらダッチラーノが口を開く。


「お前の事を見誤っていたようだ」

「へ?」

「ズキーヴチを追い払ってくれだろ?」

「は、はい」

「凄い腕前だったと聞いた」


 ダッチラーノの口元に笑みが浮かぶ。


「ありがとう。お陰で落とされずに済んだ。これはそのお礼だ。飲むといい」

「ありがとうございます」


 グラスを受け取り一口含めば、アルコールの味を感じ取った。

 この飲み物はワインだったらしい。

 すっかりお酒の飲み方を覚えてしまった俺は、未成年なのになと思いながらも注がれたお酒を飲み干した。こうなってしまったのは全てバルバロのせいである。


「これでお前は兄弟みたいなもんだ。身内として歓迎するよ」


 ダッチラーノの言葉で、このワインが縁結びの盃だったことを知った。

 縁結びの盃は余程信用して貰わないとやらない、どうやら信頼値が高くなっていたようだ。



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