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敵からただのアホへと昇格した!


 

 クレイによれば、山脈越えは早くて3日遅れて5日程らしい。

 雲の中を進んでいるのは、この辺りを偵察している教会関係の船に見付からないようにするためだった。

 

 みんな寝ているので、クレイと二人だけでご飯にすることにした。

 包みを開けて雑穀パンを頬張る。

 揺れが激しいのでスープはなしだが、マーリンガンからの贈り物の魔道具、水源筒と呼ばれる水の尽きない水筒のお陰で口のパサパサはなんとかなった。

 

 そういえばと、クレイが話し掛けてきた。

 

「皆からお前の手綱を握ってろって言われたんだが、なんかした?」

「いんや?別に(掃除以外は)なにも?」

「そうか」

 

 ご飯を食べながら軽く雑談をし、食べ終わると早々にクレイがまた何処かに行ってしまった。何処にいってるんだろうな?

 

 

 

 

 安定層に到達すると床の揺れが安定して歩きやすくなった。

 早速雑巾を取り出してあちこちを拭く。

 皿洗いは苦手だけれど、失敗しては掃除を繰り返していたため、いつの間にか掃除スキルが上がっていたようだった。

 

「ふぅー!廊下は綺麗になったぞ!」

 

 ピカピカになった廊下を眺めて満足した俺は、他に掃除するところは無いかと階段を上がった。

 たどり着いたところは甲板で、そこでは船員達が忙しなく動き回っていた。

 此処ならもっと長い時間暇潰し出来そうだと、早速船の縁の方へと向かった。

 風がかなり強い。上空だからそんなものかと思いながら俺は掃除出来そうな所を探した。

 そこで船員達がこちらに気付いたらしく、遠巻きに警戒しながら見ているが、俺は気にせずに目星を付けた船の縁を丹念に掃除することにした。

 ふと顔を上げ、そこで風景が変わっているのに気づいた。

 

「おおっ!」

 

 雲が晴れて山脈の上方が見えてきていた。雲の中とはまた違う白い景色に俺は感動した。

 なんというか壮大な光景に圧倒される。

 テレビやネットでは見たことのある光景だけど、実際に自分の目で見るのとは大違いだ。

 

「ほわー…、すげー…」

 

 見とれていたら危うく雑巾が風に飛ばされそうになったのを慌てて持ち直す。

 危ない危ない。

 この雑巾でさえこの船の物なのに、無くしてしまったら怒られるどころじゃ済まなさそうだ。

 そんな事を思ってたら、後ろから声を掛けられた。

 

「おい!!!」


 声を掛けられたというか、怒鳴られたに近いか。ともかくその声に反応して俺は振り返る。


「ん?」

 

 飛行船に乗る前に一悶着した船員が足音を立てながらやって来ていた。そして船員は俺の前に立つと、苛立ちを隠そうともしない声色でこう言う。

 

「何の真似だ」

 

 船員が怒っているのは声と態度ではっきりと分かった。だが、船長命令は絶対で、手が出せなくて悔しそうな感じだ。

 その船員に俺は正直に答えた。

 

「暇なので、暇潰しに」

「…………廊下を掃除してたのも暇潰しか」

「……そうですけど、他に雑用とか無いですかね?」

 

 俺の予想外の返答に船員は興が冷めたのか、それとも呆れ返ったのか、変な表情を浮かべると盛大に溜め息を吐いた。

 その時にはもう船員からは怒りの気配が無くなったようだ。良かった。幸いにも飛行船から落とされたりとかはしなさそうだ。

 船員は俺を指差す。正確には俺の傍らにあるバケツをだ。

 

「空の上では水は貴重だ。そいつを片付けてあそこに散乱しているロープ類を片付ける方にしろ。それでも暇潰しにはなるだろ」

 

 願ってもない提案だった。

 

「あざーす!」

 

 元気よく返事をすると、掃除道具を片付けて、言われた雑用へと取り掛かったのであった。

 この一連の出来事を見ていた船員達の俺の評価がスパイからただのアホに変更されたのは言うまでもない。

 

 




 それから俺が片付けられそうなものを探して彷徨いていると、違う船団員から雑用を言い渡され、それを皮切りにポツリポツリと俺の方へと雑用が寄越されるようになった。

 監視の目がまだあるが、少しは信用度が上がったのだと思いたい。





 夜になった。

 アスティベラードはお昼の残りのパンを完食して再び寝落ちし、ノクターンとドルチェットは完全に撃沈した。ジルハは頭が痛いらしく、痛み止めの薬を飲んでこちらも就寝。ロエテムは活動停止し、トクルもノクターンの隣でお休み中。

 そんな訳で一人寂しくモソモソと雑穀パンを豆スープに浸して食べていると、帰ってきたクレイに部屋に入ってくる早々「お前は何しんてだよ」と言われた。

 話し友達が現れて、俺はテンションが上がった。。


「お!全然姿を見かけないクレイ君じゃないかー!」


 そう言えば、クレイはブスッとした顔で扉を閉め、クレイは自分の分の雑穀パンと、水筒から自分の分の豆スープを器に注いで食事を始めた。


「しかたねーだろ。仕事手伝う条件で格安にしてくれたんだからな」

「え、そうなんだ」


 それは知らなかった。

 なら、こちらももっとお手伝いをすればもっとお安くしてもらえるんじゃないかと俺は気合いを入れ直した。


「オレの事はさておき。…んで?お前は何してるの」


 クレイの質問に俺は首を捻りながら答えた。


「何って、雑用だけど」

「噂は本当だったのか……」


 クレイは噂だと思っていたようだ。

 今のところ片付けだけど、これでも少しは信頼値を稼げると信じている。

 調子に乗らずに失敗しないよう頑張りたい。


「……まぁ、ほどほどにな」

「はーい」




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