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やっぱり賊も嫌いです

 

「ダッチさん…!」

 

 その女性に向かってクレイが名前らしきものを呼んだ。

 船員がボスと言ったからこの人がボスなのは分かったが、ソレよりも俺はその女性の腕の方にあるものに気が付いて顔を青ざめさせていた。

 黒いシャチのような骨格のタトゥー。

 これは空の女帝。ブラックボーン一家のタトゥーだ。

 そして恐らくはこの目の前の女性が、ブラックボーンの女主人、ダッチラーノ・ペペレシア。

 バルバロにいた時に関わりたくない組織の上位にあった名前だ。

 なんでも、昔バルバロ盗賊団とブラックボーン空賊団での縄張り争いでお互いすごい被害が出たらしい。

 バルバロとバレれば即時拷問の末に殺されて鳥のエサにされると先輩方から連日脅されたので俺は反射的に逃げ腰になっていた。

 そんな俺の様子にダッチラーノの目を細める。

 

「……ふーん?その反応、ってことはこちら側の人間かい」

 

 不味いと思ったが、ダッチラーノはずいずいやってきて、俺の襟首を掴むとくるりと反転させて背中のタトゥーを確認された。

 

「ハン!バルバロの人間かい!?うちに何の用だい!??」

 

 威圧的に尋ねられても、俺はあまりの恐怖に借りてきた猫の様に固まって動けなくなってしまった。

 そんな俺に代わりクレイはダッチラーノに必死に説得する。

 

「聞いてくれダッチさん!確かにこいつはバルバロの人間だったかもしれないけど!もう足抜けしてるし!オレの大事な仲間なんだ!」

「……ほう?」

 

 ダッチラーノが固まっている俺の顔を覗き見る。

 あまりの恐怖で目が逸らせないでいると、ダッチラーノの瞳の色が茶色から瞳の輪郭だけを残して白色へと変わっていく。

 まるで千里眼や呪眼のような目の変化に驚く。

 ダッチラーノと俺は無言で見詰め合い、しばらくするとダッチラーノが「ふん」と面白くなさそうに鼻を鳴らした。

 

「…嘘はついてないようだね」

 

 意外だった。

 もしや信じてくれたのだろうか。

 

「でも、もし変な真似したら即空に放り投げるから覚えておきな!」

 

 そう忠告するダッチラーノに俺は思わず敬礼で返した。

 

「へい!!!勿論です!!!」




 後日聞いた話だが、“千里眼”とは違う特定のモノを関知するスキルがあるらしい。それで見破ったとか。

 何だそのスキル。ズルいじゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 ダッチラーノとの約束で“特別に”乗せて貰える事になった。

 この場にアスティベラードいなくて良かったよ。いやほんとに。

 でもさすがに俺の悲鳴は聞こえていたようで、ディラとクレイが戻ってきて説明を終えた後、アスティベラードが必要以上に辺りを警戒するようになってしまった。

 もう少し考えてから付いていった方が良かったかもしれない。

 

「安心しな。船長命令は絶対だ。約束を守っている以上は、絶対にお前には手を出さん」

「あ、あははは…」

 

 オルゾアがそう言ってはくれたが、飛行船に乗り込むと、既に情報が行き渡っているらしく乗組員達の視線があちこちからグサグサと突き刺さってくる。

 しかも盛大に視線で『警戒しているからな』と伝えてきていた。

 俺は改めて思った。

 やっぱり賊は大嫌いだ。

 



 

 木製造りの廊下を歩き、オルゾアが途中にある扉を開けた。

 

「お前らの部屋はここだ。鎧はすまねーが床で寝てくれ」

 

 中に入ってみればハンモックがたくさん吊られた部屋だった。上下に二人ずつ横になれる使用で、ハンモックで寝るのに憧れていたディラはとてもテンションが上がった。

 アスティベラードが壁際を見て何かに気が付いた。

 

「窓があるな」

 

 アスティベラードが丸窓へと向かう。

 そこからは整備をしている船員達が見えるらしく、アスティベラードがガラス越しに下を覗き込んでいた。

 一応開閉が出来るような造りだった。しかも親切なことにカーテンも備えられている。

 ドルチェットとジルハがじゃんけんでハンモックの上下を決めているのを横目に、オルゾアは説明を続ける。

 

「飯は1日3食あるが、雑穀パンと豆スープのみだ。物足りなかったら各自の携帯食で凌いでくれ。水はありはするが限られているから、制限させてもらっている。質問は?」

 

 はい!と手を上げる。

 

「トイレは?」

「そこの突き当たりだ。排泄孔は外と繋がっているから落ちたら助からない。夜は気を付けるように」

 

 それを聞いてゾッとした。ポットンかよ怖いな。

 これはめんどくさがらずに灯りを持っていった方がいいかもしれない。

 

「さて、そろそろ出発だ。揺れるから安定層になるまではこの部屋からでないように」

 

 そう言い残し去ろうとしたオルゾアが、俺の方へとやって来ると、皆に聞こえない程の声量で一つ忠告した。

 

「お前はあまり動くな。直接は手を出されんかもしれんが、間接的に何かされるという可能性は否めないからな」

「……へーい」

 

 オルゾアのありがたい忠告に俺は常に【気配探知】スキルを発動しておく事に決めた。何もしていないのに危険が降ってくるなんて冗談じゃない。

 

 

 


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