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恐怖ほど記憶に残るものです

「見知らぬ天井だ」


 目が覚めたら何処かの部屋で寝かされていた。

 ここはどこ?

 明らかに見覚えのない天井だったのでそう呟いたら、「大丈夫ですか?」と呼び掛けられた。

 見てみるとおばあちゃんが居た。

 こちらも知らないおばあちゃん。えーと、どちら様で?

 おばあちゃんはゆっくり歩いてきて近くの机にお皿を置いてからベッドの横へとやってきた。


「三日間目が覚めなくて心配してましたんですよ。大丈夫?お名前言えるかしら?」


 なんか凄い子供扱いされている気がする。

 名前くらい言えるわ。と、俺は考えた。

 えーと、名前名前。俺の名前。

 と、そこまで考えて盛大に首を捻った。

 はて、おかしいな。名前らしき単語が出てこない。

 いやまてよ。これは度忘れしているだけだ。

 自分の名前を忘れるなんて事があるはずがない。

 思い出せ俺のブレイン!!

 むむむむと全ての集中力を用いて記憶を呼び覚まそうとしていたら、突如野太い怒鳴り声が甦った。



『ディラアアア!!!今度は壺割りやがったなあああ!!!』

『また塩と砂糖間違えたのかディラアアアア!!!!!』



 脳裏に甦る数々の幻聴。

 なるほど、そうかそうか、よく分かった。


「ディラです」


 俺は確信した。

 多分ディラだ。

 何か足りない気がするけど、これで凄い怒られていた気がするから恐らくディラが名前だ。


「そう。ディラね。良かったわぁー、頭からの出血が凄かったから。

 でも、もう大丈夫そうね。そこにスープを置いておくから、飲めたら飲んでね」


 そう言っておばあちゃんは部屋から出ていった。

 頭から出血か。何したっけ?

 触ってみると包帯が巻かれていた。というか、体も包帯が巻かれている。

 頭を押さえて思い出そうとしたけど、何も思い浮かばなかった。

 ええ?何したのかぜんぜん思い出せない。

 というか、やばい。


「なんにも思い出せない」


 自分がディラっていう自覚があるからディラなんだろう。

 だけどソレ以外はさっぱりである。

 困ったなと腕を組みつつ考えているとおばあちゃんが戻ってきた。


「食べれるかい?」


 仕方がない。

 俺は心の中で白旗を上げて助けを求めることにした。


「あの、すみませんおばあちゃん。俺、ディラ以外思い出せないです」







 村の医者が来た。

 包帯が巻かれた頭や体の傷を見るためである。

 医者が言うには、頭は打撲の際の裂傷。

 体は刃物による傷らしい。一体何をしていたんだか。

 過去の自分に呆れつつ、医者の言葉を待った。


「野盗にでも襲われて頭を殴られたのか。はたまた川で流された時にぶつけたやつなのか」


 バタンと医療機器を入れた鞄が閉じられた。


「どちらにしても記憶はいつ戻るか分からないので様子見ですね。幸い自分の名前は覚えているようなので」

「様子見ですか」

「なんなら村で仕事とかしてみたらいかがです?ひょんなことから思い出すかもですよ」

「なるほど」


 ならしばらくおばあちゃんのお世話になるしかないのか。


「おばあちゃん」

「はいはい?」

「しばらくお世話になってもよろしいでしょうか?」

「勿論ですとも。ゆっくりしていきなさい」







 そんな感じでこのナッツ村に転がり込んだ俺ことディラは、家の近くの工房等に通いつめていた。


「これ見るの楽しいかい?」

「そうですね」


 毎日のように来る俺を呆れつつも嬉しそうにしているオッサンは最近口を利いてくれるようになった。

 楽しい。鉄が面白いくらいに加工され、姿が変わっていく。

 なんとなく何かを思い出せそうな気もするけれど、もう一押し足りない。

 喉元まで来ている感がもどかしくて仕方がない。


「弟子にしたい所だが、お前さんセンスないからなぁ…」

「ですよねー」


 試しにとハンマーを持たしてもらったが、狙いは外れて当たらなかった。

 好きと才能は比例しないのがムカつくところ。

 危うく左手を叩き掛けてこのオッサンにハンマーを取り上げられてしまってからこうやって眺めるだけに終わっている。


「お前さん、もしあれだったら、魔法具屋も覗いたらどうだ?あそこなら大きな動作しないでチマチマ作るから手元も狂いにくいだろ?」

「なるほど」


 確かにソレなら不器用な自分でも出来る気がする。


「その魔法具屋って何処にありますか?」

「ああ、あそこの森あるだろ?」


 オッサンが指差す方向には村と隣接している森。

 結構な密度で木々が生い茂っているせいで個人的にジャングルと呼んでいる森だ。

 だけどこの森にはおばあちゃんから聞かされたもう一つの名前がある。


「禁断の森ですか?」

「迷いの森な。道を外れるとすぐに出口に戻される魔法の森だよ。あの道をずっといった先にある」

「ほぉ」


 おばあちゃんにアンタは自分の事も忘れるほどのおっちょこちょいだから『禁断の森』に行ってはダメよと耳にタコができるほどに言い聞かされていたが。過保護すぎない?

 というか名前を嘘つかれていたのか。

 きっとおばあちゃんは俺の事を幼児か何かだと思っているに違いない。


「道を外れなければいいんですよね」

「ああそうだ。子供でもお使いできる。一度行ってみてはどうだ?」

「そうですね」


 子供がお使いできる程度の森ならば迷う事もあるまい。

 せっかくオッサンに紹介されたんだし、行ってみますか。

 俺は早速と立ち上がり、迷いの森へと向かった。


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