“賊”
「うわ!」と、残りの皆が戻ってくるなり頬に湿布を貼ったクレイを見て、皆俺と同じような反応を返した。
特にドルチェットなんかはクレイの襟首掴んで揺すぶり、「誰にやられた!?言え!お見舞いしてくる!!」と激昂し、皆で「訳があるから!」と宥めるのに苦労した。
「で?」
と、不機嫌を声に滲ませたままのドルチェットが言う。
「飛行船に乗れるってのは本当か?どんな手を使ったんだ?」
ドルチェットがクレイを問い詰めると、思った以上に腫れが酷くなってきたクレイが話しにくそうにしながらも説明をした。
「昔の伝を使ったんだ。子供の時から世話になっていた組織なんだが、少し前に喧嘩別れしてしまっててな。今日はそのケジメをつけてきたから、無理言ってワガママを一つだけ叶えて貰えることになったんだ」
クレイが喧嘩別れとは珍しい。
いつも何だかんだと世話を焼き、仲間思いのクレイからは信じられない言葉だ。
「へー、何の組織?」
俺は何ともなしに質問すると、クレイは一瞬口を閉じて思案したが、まぁいいかと再び口を開く。
「まぁお前らなら言っても良いだろ。空賊だ」
“空賊”。その言葉で部屋の空気が固まった。
「く、空賊??」
俺は思わず聞き直す。だが、聞き間違いではなかったらしく、クレイに「ああ」と返された。
隣にいるジルハに視線を向けると、肯定の頷きを返される。
いや待て、もしかしたらクーゾクという異口同音かもしれないと、俺は再度質問して確認を取ることにした。
「って、あれだよね?いわゆる空の盗賊みたいな?」
「簡単に言えばそうだな」
「おおう…」
やはり賊絡みだった。また賊絡みですか。
脳裏に甦るバルバロ盗賊団のムキムキ先輩方と、初めはスパルタだったのに、あまりにも俺がダメダメ過ぎて最後には俺を見る表情が“呆れ”のソレだったボスの姿。
そういえば川に一緒に流されたガムキー先輩は無事だったんだろうか。
そんな俺の様子にクレイは不思議そうな顔をする。
「なんだ?空賊苦手か?だってお前元盗賊だったんだ──」
「わー!わー!わー!」
慌ててクレイの口を押さえた。
何故クレイが知っているのか。俺は焦った。河原でみんなに今までの経緯を簡潔に説明したときも、盗賊団の事はぼかした為に知っている筈がないのに何故!?と。
「待って待って何で知ってるの??俺言ってないよね!!」
慌てて訊ねると、クレイは「は?」と言いたげな顔をした。クレイだけではない。皆も「なにを今さら」みたいな表情をしている。
予想外の反応に俺は混乱した。
話した記憶はないのだが、もしやまた何処かしらで記憶喪失になっているのかと自身を疑う。
「…あれ??俺言ってなかった気がするんだけど言ってましたっけ???」
念の為に訊ねる。
すると、クレイは答えた。
何故皆が知っているのか。その答えは明白だった。
「お前背中に刺青入ってるだろ。バルバロ盗賊団の」
「……あ」
そういえば、仲間の証の刺青を背中に入れられた事を思い出した。本当に嘘であって欲しかった。
気絶するほど激痛過ぎて記憶から完全に抹消していたそれ、確かにそれを見られれば知っている人は理解するだろう。
だがそこで一つ疑問が浮かぶ
「……見せましたっけ?」
「見せるもなにも、お前を看病していた時あったろ?そん時に皆見てるから知ってるぞ」
「…さいですか」
確かに拉致事件の後、俺は薬の副作用のせいで確かに高熱を出した。体を拭かれる時に見られていた訳だ。
よく皆突っ込んでくれなかったものだとは思ったが、いや、そんな状況じゃなかったなと納得した。
「ま、あれだよ。盗賊も空賊もどっちも似たようなものだし、もしかしたら仲良くなれるんじゃねーか?」
「そうかなぁ…?」
俺が空賊を警戒するのは、“賊”トラウマの一種と、もう一つの理由なのだが、そんなことを説明したところでどうにもならない。
空賊苦手と勘違いされたクレイにそんな言葉を投げられた俺は「そうかなぁ」と思いつつも、クレイの知り合いならば大丈夫かもしれないと信じてみることにした。
マーリンガンの薬が効いて、クレイの頬の腫れが引いた。
やはりマーリンガンは侮れない。
そんなクレイの案内のもと、アオゾアの近くの森へと向かった。
ここらは雨が良く降るために森が生い茂り、ジャングルの様になっていて、やばいモンスターの縄張りになっている。
だけど、そんな森のなかを馬車は何事もなく進んでいく。
「どういう仕組み?」
あまりにも不思議過ぎて訊ねてみた。
「お前の持ってる不思議道具と同じだよ」
「なるほど」
つまりは道を周囲に同化させる系の魔道具、もしくは魔法が仕込まれているようだ。




