ゼリーの中って多分こんな感じ
「『さて、そろそろ切るね』」
「え、もう?」
あまりにもあっさり退場しようとしてビックリした。
「『ん?何か用でもあったかい?』」
「いや別にそう言う訳じゃなかったんだけど」
「『そう?あ、そうだ言い忘れていた。こっちに電話掛けるときは、魔道具に指を当てて、心の中ででも“コール”って唱えれば繋がるから。切る時はトントンと二回叩けば切れるからね』」
「へー。わかった」
「『じゃ、ま──』」
二回タップすると本当に切れた。これは便利だ。
「お前さ、マーリンガンに対してはわりとドライだよな」
何故か突然そう言い出したクレイだが、俺は意味が分からず「え?なにが?」と返した。
ゴトゴトと順調に馬車は進む。
ここしばらくは結構平和で聖戦なんか無かったんじゃないかと錯覚してしまう程だ。
販売用のアクセサリー作成の手を止めてノクターンの方へと向かう。
今ではノクターンの代わりにロエテムが手綱を握り、御者をしていた。その内ロエテム用の外装か変更できるようにしても良いかもしれない。
マーリンガンの話によると、ロエテムの本体は内部にある木製のパペットらしいから、それさえ壊されなければ大丈夫と聞いた。
もし作るのならフードを着けて顔がわからないようにしないといけない。
いくらパッと見の外見が人間でも、顔を見られればどんな反応をされるかわかったもんじゃない
とするならばコミュニケーション方法も考えないとな。
いや、さすがにそれはノクターンが何とかするか。
ノクターンが俺に気が付いて、ロエテムの位置を変えてくれた。
「馬、グラーイの調子はどう?」
「すごく良いです…。魔力を多く使うかと思いましたが、思ったよりも少ない量で動いてくれて助かってます…」
「それは良かった」
勿論だけどパペットを動かすのだってスキルとはいえ魔力がいる。
しかもそれは重さが増えれば増えるだけ多くなっていくらしい。
マーリンガンが鞄に色々入れていた道具の中には軽量化の魔法陣とやらが彫られた飾りボタンがあったから馬具飾りとして使ってみたのだが、きちんと効力を発揮しているようだった。
「あ…、でもグラーイが一つだけ不満があると…」
「え!?」
まさか作り物のグラーイが不満を言うとは思わなかった。
「ち、ちなみに何て?」
「蹄鉄を着けてくれと…。歩く度に石で削れて完璧な爪が歪んでしまうので悲しいそうです…」
「ごめんわかった購入次第すぐに着けるね!!!」
グラーイを止め、蹄を確認すると確かに削れてしまっていた。
なんだなんだとみんなが馬車からこちらを見る。
「…………痛みとか無いよね?」
「痛みは無いそうです…」
「うーん…」
かなりの距離を歩いたために蹄は3分の1が削られていて、整えようがない。
「次の町で素材を調達して付け直すしかなさそう。それまでは我慢できる?」
グラーイは鼻を鳴らした。
どうやって鳴らしているのか。
近くの町に立ち寄って蹄鉄を購入し、材木屋でグラーイの脚の素材を購入。すぐに彫り出して形を整えて付け掛けた。
勿論蹄鉄も打ち込んだ。
これで歩く度に小石で削られることはないだろう。
「調子はどう?」
前足で地面を掻く。
ちょいちょいやるこの仕草だが、俺にはどういう意味なのかさっぱりだった。
なにを言っているのかとノクターンを見れば通訳をしてくれる。
「良いそうです…」
「ならよかった」
念のために蹄部分を取り外せる構造にして、いくつかストックも作った。
これで安心だろう。
そんなディラを見ていたドルチェットとジルハ。
「こいつが作るの初めて見たけどさ、矢尻で彫る奴なんてこいつだけじゃないか?」
「うん。僕もそう思う」
そのまま平和に移動している、やることと言えば途中で碁石のことを思い出し、定期的にばら蒔くくらい。
結構撒いたと思うのだが、袋の大きさに対して入っている石の数が合わない。
きっとこれも中身を拡張しているのだろう。
さて、山脈を越えるためには飛行船に乗らなければならない。
ちなみに山脈を越えて内地に入ることを『魔界入り』と呼ぶ。
物騒な名前だけど、ここの世界の人達にとってはそんな感覚は全く無いらしい。
ずっと遠くに見えていた山脈が空の下半分を占めてきた。
その山脈の下辺りにアオゾアの街が遠目に見え始め、クレイが警戒を強める。
「アオゾアに入る前に検問がある。ここをどうにかして切り抜ける作戦だが、その、昨日話したあの作戦で大丈夫か?」
クレイの言う作戦とは、クロイノの中に入り影潜りをして貰うと言うとんでも作戦だった。
とはいえ、俺は不安だった。
別にクロイノを信用していない訳じゃない。
ただ、中に入った際に想定されるアレコレが不安だったのだ。
「ホントにホントに大丈夫???消化されない???」
「無論。私が入って大丈夫だったのだ。ならば貴様も大丈夫であろう」
それは飼い主(?)であるアスティベラードだからじゃない?というツッコミを入れるべきかディラは悩んだ。
そこに痺れを切らしたドルチェットがディラの脇下に手を突っ込んでひょいと持ち上げた。
嘘だろ。これでも体重60キロあるのに。
「うるさいなぁ、男は度胸って言うだろ?大丈夫って言うんだからやってみろよっと!」
そう言ってドルチェットが俺をクロイノへと突き出すと、ドブンとなんとも言えない感覚に包まれた。
暖かいゼリーのようなものに囲まれているのに呼吸は一切苦しくない。
景色もモニター越しのように見える。
「 どうだ?気持ちよかろう 」
アスティベラードの声がくぐもって聴こえる。
「うん、思ったよりも気持ち良いんだけど、一つ質問して良い?」
「 なんだ? 」
「この状態って、魔力を吸われたりとかは?」
「 クロイノは器用なのでな。そんな間違いは起こさん 」
「なるほど」
俺のクロイノメモに“器用”という情報が加わった。
「じゃあそのまま影潜りもやってみるか」とのクレイの言葉で、俺をクロイノの中へ納めたまま様々な実験が進められたのだった。




