ファンタジーらしくなってきた
馬が俺の背中を突っつきだした。力が強すぎて背骨ゴリゴリされているのだが、動作がまんま馬。きっと口があれば服をかんでいる。
「して名前はどうするのだ?」
「え?名前??」
「名前だ。名前は良いぞ」
そう言ってアスティベラードはクロイノを撫で回す。
名前か。俺は考えた。
「うーん、そうだなぁー」
木馬では安直すぎるし、恐らく自分ではまた単純な名前になってしまう。
そこで隣にいたノクターンに投げた。
「ノクターン付けてよ」
「へ…っ!?」
「元語り部なら馬関係の格好いい名前とか色々知ってそうだし」
するとアスティベラードが賛同した。
「おお!確かにそうだな!」
「え…えーと、えーと…」
アスティベラードにそう言われれば断れないのだろう。
オロオロとしながらもノクターンは考え、ようやく良さげな名前を思い付いたようで口を開いた。
「……では、グラーイなどはどうでしょう?」
「グラーイ?どんな意味?」
俺の質問にノクターンは説明してくれた。
グラーイは物語の馬の名前だった。
「とある物語の英雄が連れていた大変賢く、そして強い馬の名前です。雪崩で埋まった主を助けたり、炎に飛び込んで主に向かう攻撃を代わりに受けて守った逸話がありまして…、鐵や灰色、強い馬、動物における長命などの意味があります。最終的には空を駆けれるようになったとか」
思った以上の凄い馬の名前で興奮した。
物語のなかとはいえ、なんとなく縁起担ぎとしては良いのではなかろうか。
「へえ!いいじゃん!じゃあ今日からお前の名前はグラーイな!」
こうして張りぼての馬は、グラーイというとても立派な名前を付けて貰ったのだった。
その後、ノクターンのスキルが珍しすぎて問い詰めたところ、恐らく元語り部のスキルと魔術師のスキルが影響し合い、特殊なスキルが発言したのでは?という推測に落ち着いた。
馬車を買った。
馬車といっても商人が良く使っているテントみたいな馬車だ。荷車に骨組みを組み立てて、天幕を張るタイプの簡単なものではあるが、それでも馬と同じ値段がする。
田舎に行くと中古で安く譲ってくれるけど、中古だとどうしても車輪が磨耗しているからここはやっぱり新しい方が良い。
今回購入しようとしている馬車を眺めながら、店主の元へ行ったクレイを待っている。
しばらくしてクレイが戻ってきた。
「買ってきたぞー」
「おー!」
パチパチと拍手。
「すまんなアスティベラード。借りた分はいつか絶対に返す」
「うむ」
あの後、やはりスッキリしないとクレイが言ったので、アクセサリーを作ってプレゼントする俺以外のみんなで分割という形となった。
そもそも俺は馬を製作したので当然といえば当然である。
少し遅れて馬車の販売をしていた主人が鍵を持ってやってきて、車輪を固定していた鎖を外してくれた。
これで完全にこの馬車は自分達のものである。
「本当はこちらではなく、あちらのものが良かったのだが」
そう示すアスティベラードの指の先にはギンギンギラギラでゴッテゴテな装飾の馬車があった。
王族でも一部の人しか好かなさそうな感じである。
もしやアスティベラードはああいうのが好きなのか。
「……あれは、特徴が有りすぎて教会にマークされたら逃げられないんじゃない?」
「むう、それもそうか」
教会の言葉で納得してくれたアスティベラード。
「ディラ!馬を出してくれ!」
「はーい」
クレイに呼ばれて鞄からグラーイを取り出し、取り付ける。
それにしても絶対に一般人じゃないよな、アスティベラードさん。そう思いながら俺はアスティベラードに視線を向ける。
どっかのお姫様だったりして。
「……あの、進んでください…」
確実に言うこと利かせられるという理由でノクターンが御者になった。
といっても想像していた馬の手綱を振って、「はっ!」という声かけで馬を進ませるという想像とは違い、グラーイにお願いをするという斬新な進ませ方をしていた。
とはいえ、グラーイは本物の馬ではないし、ノクターンが操っているのでそもそも手綱は必要ないのだけれど。
馬車は進むよ何処までも。
荷物は積み終え忘れ物はなし、ノクターンのお願いで進む馬車は実に快適だった。懐は寂しいけど、一狩りすればなんとかなる。
パチンと手元にある余った糸を鋏で裁ち切れば、アクセサリーが完成した。
「よし出来た!」
俺の手には輝くブレスレット。金と青の二色で構成されたものだ。
これならば戦闘時邪魔にならないし、着脱が簡単だからというのが理由だ。
「出来たのか!!見せてみよ!!」
真正面でずっと見ていたアスティベラードが勢い良く手を出してきた。
そんなに待ち焦がれていたのかと驚きながら、出来上がったブレスレットを渡すと、すぐに左手首に装着してニマニマとした笑みを浮かべた。
「ふふ、良い。良いな」
「サイズはどう?」
「ちょうど良い!」
ほれ!と、アスティベラードがディラにブレスレットの嵌まった左腕を見せる。
幅も厚みも重さも問題無いようだ。良かった。
すくっとアスティベラードが立ち上がる。
「ノクターンに見せてくる」
そう言って御者のノクターンの方へと歩いていくアスティベラード。
相当嬉しいらしく、ノクターンの隣に座り長々と語っていた。
アスティベラードに相当ウケるのならば、内職としてアクセサリーを売るのも良さそうだなとディラは売るとしたら何が良いだろうかと脳内でデザインを引っ張り出す。
「なー、クレイ」
ドルチェットが盾の手入れをしていたクレイへと話し掛けた。
ん?とクレイは顔をあげた。




