憧れのウォンテッド
「雑談一旦やめてこっちにちゅーもく!」
クレイの声にみんな静かにそちらを向いた。
「そのまま近くの街にいくぞ。教会が無いのを祈るが、ディラは念のためにフード被っておけよ」
「うーす」
クレイに言われて新調した服のフードを被ると、「いや、今じゃない。街についたらな」と言われたのでフードを外した。
「そういえば金は足りるのか?」
ドルチェットの質問にクレイは首を横に振る。
「正直心許ない。本当なら一つ二つクエストを発注したいところだが…」
「俺だよね?」
問題は分かりきっている。だからそう言えばクレイは図星の顔をする。
手配書が出回っているかもしれないし、迂闊に動けない。それでも生きている以上お金はいるのだ。
悩むクレイにジルハが提案した。
「あの、提案なのですが、ディラさんは外で待ってもらってボクらだけで発注とかはどうですか?」
それも考えたんだがな、と、クレイは言う。
「それでうまくいけばいいが、万が一オレ達も顔バレしていた場合、二手に分かれていると最悪人質にされる恐れもある」
「めんどうだなー」
あり得そうなクレイの例え話にディラはぼやいた。
本当に教会が嫌いだ。
そこまで考えて、はたと思い出す。
そう言えばこんな時に便利なスキルがあったじゃないかと。
「あ」
「どうした?」
そうだ。要はディラだって気付かれなければいいだけだ。
「俺、隠密スキル持ってた」
しばし沈黙。そして。
「「早く言え/わんか!!」」
クレイとアスティベラードに盛大に怒られた。
三日掛けて森を抜けると、開けた所に目的の街が現れた。
セルスト街。マーリンガンの言うことには陶器作りが上手い街らしい。
近くに良い土が取れる所があるのだろう。
早速フードを深く被りつつ【隠密】スキルを発動する。
対象は仲間以外全て。
おかげで影が極限まで薄まって誰にも不審がられない。
本来は気配に敏感なモンスターを狩ったり、逆に強いモンスターから逃げるために使うものだから、こうやって人間相手に使うとは思わなかった。
「まさかディラさんが隠密スキル持っているとは思いませんでした。でも、弓兵なら持っている方もいるんでしょうね」
このパーティーでの【隠密】スキル保有者であるジルハが嬉しそうにしている。
一度ここの世界の【隠密】と自分の【隠密】の違いを確認したらだいぶ差があった。
ジルハの【隠密】は、目を離すと姿を見失い、普通に探そうとしてもなかなか見付からない。だけど見付かりにくいだけで見付けたらロックオンできた。【意識反らし】のスキルに似ている。
一方俺の【隠密】は目の前にいてもすぐにその人と判断できないというものだった。
分かりやすく言うと、目の前にあるのに“それだとすぐに判断できない”様にする。木と人との判断を曖昧にするというものだ。
同じスキルでも違うのだなと二人して興奮した。
「もしかして【背景】スキルとか出てたり?」
「なんですそのスキル?」
【背景】とは空間に溶け込む事に特化した特別なスキルだ。
このスキルを発動すれば、個を認識できなくなり、そこにあるのが当たり前という洗脳に掛かって視界から除外される最高で最悪のスキルだ。
「へー、便利なスキルですね」
「結構評判は悪いけどね」
プレイヤーキル必須のスキルとも言われてた。俺も嫌がらせや狂人に絡まれて何度かあれで無駄に殺された事がある。
でもあれが仲間が持っているのならば最高のスキルという諸刃のスキルなのだ。
俺も欲しいスキルに入っているが、残念ながらあれは【暗殺者】や【斥候】【観測者】などの裏の職業でしか発現しない。
弓兵も会得できれば良いのに、【隠密】などが関の山だ。
そんなことで【隠密】スキルを発動して街をブラブラしてみたのだが、確実に【隠密】スキルは効いていて、今のところバレてはいない。
その途中、壁に貼られた紙を見てドルチェットが肩を突っついた。
「おい、見てみろよこれ」
「おお。お前ではないか」
「うーわ」
壁に貼られていたのは“ディラ”の手配書だった。
写真のような絵だ。見る限りこれはこの間の聖戦のものだろう。
いつ撮ったんだ。
「通報者には30万マルダ…」
なかなかの金額じゃないか。
と、何処かの漫画の主人公の気分になってみた。
「思ったよりも優秀だな、その【隠密】スキル」
クレイに言われて俺はちょっと得意顔になった。
「そりゃボス戦の為に死に物狂いで修得したからね。簡単には破られませんよ」
それこそ【千里眼】とか【見極め】とか、観測系の魔法じゃなければやり過ごせる。
「じゃあ試しに道具屋に行ってみるか」
「突発的すぎて俺怖いわ」
ということで、クレイと共に途中で狩ったウサギと雉を持って道具屋へと行ったら、なんの問題もなく買い取ってくれた。
改めてスキルの有能さを再確認した。
「よゆーだった」
「でも油断するなよ」
「分かってるよ」
少しだけ膨らんだ小銭袋を持ちながら皆の元へと帰ったのだった。




