周回しましょうか
俺の仲間に何を言うんだこの爺。
そんな思いを込めて見ていると、マーリンガンはフフンと不思議な笑みを浮かべた。
「でも、僕の唯一の理解者の仲間ってことでレベル上げを手伝えないこともないけど、どうだい?どうせ次の聖戦までレベル上げをするつもりだったんだろ?」
たしかにそうだ。
だけど、一体どうやってなんだろうか。
「ちなみにどうやって?」
訊ねると、マーリンガンは素敵な笑顔で答えた。
「まぁまぁ、そこは僕の魔法具でちょちょいと、ね?」
何だろうな。嫌な予感しかしない。
「マーリンガンてめぇふざけんじゃねーーぞおおおおお!!!!!」
気を抜けば即死しそうな攻撃の雨を掻い潜りながら、目の前のゆるキャラのような仮想敵に向かって叫んだ。
仲間は既に死に戻り中で、ペナルティとして一人で俺用にレベル調整された&不利属性と一騎討ちで戦う羽目になっていた。
なんでそうなったのか。
原因は数時間前に逆戻る。
ドルチェットが胡散臭い笑顔のマーリンガンへ言った。
「レベルアップを手伝うだあ?」
絡み方がチンピラのそれだが、初見ならば仕方ないであろう。
何せこの人年齢詐欺だし、なんなら性別も詐欺だし。
そう思っていると視線が突き刺さってきた。マーリンガンである。
口パクで「君、今失礼な事を考えてなかった?」と言われたので、「気のせいじゃないですか?」と口パクで返しておいた。
怪訝な顔をしながらも切り替えるためにコホンと一つ咳払い。
「んー、正確には、次の敵に無駄に殺されないように、予習をするって事です」
そこでようやく理解した。
つまりは、ゲームでいう周回をすると言うことだ。レベ上げである。
「ところで君たちは、どうやってレベルを上げるのかを理解しているかい?」
ム、とアスティベラードが不機嫌顔になった。
バカにされたと思ったのか、すぐさまマーリンガンの質問に答える。
「モンスターを狩って経験値を積めば上がる。そんなこと子供でもわかるわ」
「そう。それも正解。でも実は職人でもレベルの概念は存在する。生産者ギルドに登録していないと知らない人も多いけど。その人たちは戦ってないよね?でもレベルは上がるんだ。なんでかな?」
「………」
確かにそれはそうだ。
ブリオンではクエストを達成する度、もしくは修練が完了する度に経験値が溜まっていく仕組みだった。
もしかしたらこの世界でもそうなのかもしれない。
そう思う俺の横にいる仲間達は皆一様に考え込んでいた。
そんなこと考えたこともなかった、という風である。
その内、閃いたらしいノクターンがおずおずと答えた。
「あの…、もしかして挑戦の数…とかでしょうか…?」
魔法職のレベルアップ方法は戦闘、呪文の暗記、魔法コマンドの獲得など複数ある。人によっては戦わずにレベルアップする人達がいるから思い付きやすかったのか。
嬉しそうにマーリンガンが頷いた。
「それも半分当たっている。簡単にいうならば、自分という存在の熟練度を上げる行為をすると経験値が溜まるんだ。聞かないかい?同じ相手ばかりではレベルが途中で止まるっての。あれは、その存在に対しての対処を全て知ってしまったことによるレベルの打ち止めなんだ」
マーリンガンの答えにクレイがハッとする。
「あの、もしかしてギルドの推奨している、相手にするなら自分のレベルの一つ上を目安にしろっていうの」
「そうそれ。格上ならば得られるものが多い。だから経験値を溜めるにはもってこいなんだ。
ちなみに人によっては同じ相手でも自分にわざと不利な属性を選んだり、デバフを山盛りにしていくやつもいる」
「イカれてるな」
うええ、とドルチェットが舌を出したのを見て、俺はそっと視線を逸らした。ブリテニアスオンラインで身に覚えのある行動の一つだったからだ。
「つまりそれをやるんですか?」
ジルハもなんとなく察して言うと。
マーリンガンは肯定した。
「そうそう。でも実際に戦うってなるとどうしても時間も掛かるし、危険だからね。だから」
机の下からマーリンガンはあるものを取り出した。
四角いゼリー状の物体。中には赤いタピオカみたいなの。
それを見た瞬間、俺は固まった。え、まってそれまさか。と混乱しながらマーリンガンを見る。
マーリンガンの持っているそれは、知っているものだったからだ。
「これを使う。場所は良いところがあるからそこを使うと良い」
「なるほど」とクレイが納得した。
「確かに現状はとにかくもやることはレベルアップだ。その手助けをしてくれるなら断る理由もない。それでいいよな、みんな」
クレイに訊ねられ、頷いた。
ドルチェットも初めは疑っていたが、「そう言うことなら…」と受け入れた。
こうしてマーリンガンによる強制レベルアップ修行、マーリンガンの試練が始まったのである。




