リアル逃走中
クレイに担がれ森を進み、川原までやって来た。
先導するジルハいわく、「水の臭いで追跡の確率が低くなります」との事らしい。
まだ力の入らない俺は、クレイに背負われて申し訳ない気持ちで一杯になっていた。
「なんかさ、介護されてる気分だよぉ…」
それと同時にクレイの凄さを思い知る。殆ど背丈変わらない俺を背負ってこの速度。シールダーの職業補正とかなんだろうか。
逆だったなら、間違いなく3歩で動けなくなってる自信があった。
「実際そうだろ。まぁ、3日間あの状態だったと思えば同情しかないからな。体が治るまでゆっくりしてろ」
「わーい……、…3日?」
なに?3日って。と、クレイの先ほどの言葉を繰り返した。
「気付いてなかったのか?お前が連れ去られてから3日経ってんだぞ」
「まじかぁ、全然気が付かなかった…」
外見えなかったから感覚がずれていたようだ。
でも確かに見張りがやたらとパンと水を目の前で見せびらかすように飲食してたり、すぐに寝転がってイビキ掻いてるなと思ってた。
「多分、馬車に掛けられた結界か、もしくはそういう毒を盛られた可能性が高いな。ソウツ毒とかか、体の機能を限界まで低下させるヤツな。一日の体感時間がずれたり意識が飛び飛びになったりする。覚醒剤に使わる有名な毒だ」
「げぇー、こっわ」
「しばらく後遺症が残るかもしれんが、そこはなんとかなる。対処法を知ってるからな」
「さすがリーダー心強い」
クレイの毒の知識に感心した。俺も見習って勉強しようと思う。
横を歩くアスティベラードが救出以降からずっと無言だ。
きっと怒っているんだろうな。
せっかく忠告してくれたのに結局こうなったから。
「あの、アスティベラードさん」
アスティベラードが俺の方に視線を向けた。
後ろにいる黒いのも。
「ごめん、警告してくれてたのに油断してた」
「良い。許す」
あっさりと許してくれた。
「私も追跡しか出来なかった。それに三日も掛かってしまった…。今もあやつらを消し炭にしたい気持ちで一杯である」
そうそう!とドルチェットが割り込んできた。
「アスティベラード凄かったんだぜ!クロイノからお前が危険だと報告があったってトクルがノクターンに報せてさ、すぐさまクロイノとトクルが追跡交代して常に場所を教えてきたんだ。ちょーっと足を確保するのに手間取ったが、間に合ってよかったぜ」
ドルチェットが目をキラキラさせながら説明してくれた。
そうか。黒いのがちゃんとヘルプミーと教えてくれたのか。…て。
「クロイノ?」
アスティベラードに視線を向けると。
「貴様が名付けただろう。後ろのこやつだ」
と黒いのを示す。
やっべ。と、俺は焦った。
そのまま名前になっちゃった。もっとカッコいいので読んでいればよかった。ブラックとか。いやいや、というか名前なかったんかい。
言いたいことは山ほどあるけれど、それよりもまず言わないといけないことがある。
「…クロイノありがとう」
そう言うと、クロイノからほわほわとした感情が伝わってきた。
やっぱり可愛いかもしれない。
しばらくポツポツと何でもない会話をしているうちに、俺はだんだんと重くなる目蓋を開けていられなくなってきた。
疲れが出たんだろうか。
「………やばい。…ちょっと眠い…」
「おう、寝とけ寝とけ」
緊張の糸でも切れたんだろうな。
悪いなと思いつつも少し眠ることにした。
「寝たか」
背負っているディラの重みが増した。
寝たらしい。
「死んではないですよね…??」
ノクターンの不安げな言葉にアスティベラードがソワソワとし始める。
「大丈夫だ。しばらく解毒のために眠ることが多いだろうがおれがなんとかする。リーダーとしてな」
「ヒューッ!かっこいいな」
「ドルチェット」
「褒めただけだろ?」
諫めたジルハに向けて、ドルチェットが、ぷー、と頬を膨らました。
それを眺めながらクレイはこの三日間を思い返す。
完全に予想外だった。
まさかこのアンポンタンが教会に目を付けられているなんて誰が思うだろうか。
(あんな事があった後じゃ、今さら見捨てるなんて事もできやしねぇ)
何か訳ありかもしれないとは思ってたけど。
はぁー、なんとかするしかねぇ。リーダーとして。
決意を胸に、クレイは口に笑みを浮かべる。
「なに笑ってるのだ」
「いいや?別に。それよりも皆、約束したの覚えているよな」
得体の知れないこいつと関わるのは骨が折れるぞって。
それでも助けると皆付いてきた。
お前は恵まれてる。
「たわけ」
「あったりまえだ」
「ええ」
「はい…」
どんな理由であれ、とことん付き合ってやるぞ。
覚悟しとけ。




