視線が痛い
こちらに気が付いたノクターンがやって来た。
「あの……大丈夫ですか…?」
「食べ物ないですか?空腹すぎて死にそうです。水でも良いです」
せっかく心配してくれたのに、俺の開幕の第一声がこれだった。
仕方なかろう。朝食べてから何も口にして無いのだ。
「これ飲んどけ」
と、クレイに謎の瓶を口に突っ込まれた。
食べ物だワーイ!とようやく口にした体は必死にそれを飲んだ。
乳酸菌飲料的な味のそれは空腹の体に優しく染み込む。
だが、量が足りない。
もう一本欲しいがクレイはノクターンと話している最中だった。
「ノクターン、どのくらい魔法は持つか?」
「あと…、持って7分程度です…。でもアスティベラードが上乗せしているみたいなので…13分ほどでしょうか…?」
「撹乱させていれば逃げ切れるか。よし、行くぞ」
このまま逃げるらしい。
二人に引きずられるようにして一歩踏み出し、ハッとした。
「待って俺のエクスカリバー取り上げられた」
「は?えく?なに?」
「弓」
クレイにマジかこいつみたいな顔されたけど、これだけは引けない。
「唯一の相棒をここに置いてなんかいけない」
それに、大事な理由なもう一つ。
「それにさ、もし村がなんかなってたら形見的な感じになっているからどうしても取り戻したい」
「そんなこと言っても探している時間なんか殆どないぞ」
「場所は分かる」
さっきから【千里眼/見極め】を発動しなくても視線が突き刺さっている。
この視線は絶対にエクスカリバーだ。
「あそこにある」
鋼鉄車の前方を走っていた豪華な馬車の後ろの部分。
そこからずっと視線を感じていた。
なんならドナドナ中もずっと視線を送り続けられていたんだ。もしこれで置いていってなんかみろ。盛大に恨まれるか呪われそう。
武器に意識があるのかはさておいて、前のマーリンガンの言葉があるからな。
そんな俺の必死な顔でクレイは折れてくれた。
「丁寧に開けている時間はないな。ドルチェット!」
「なんだ?」
見張りをしていたドルチェットがやってきた。
「あの馬車の後ろの部分を破壊できるか?出来るだけ端の方を」
ドルチェットがそこを確認してニヤリと笑った。
「はっ!任せろ!」
大剣を抜き、思い切り馬車に振り下ろした。
ちょっと待ってと止める暇さえなく、大剣は指定された箇所を綺麗に切断していた。
「わお」
しかも切れすぎて車輪まで割れていた。
切れ味ヤバすぎる。
真っ二つになった箇所を見て、心配になっていた。
「俺のエクスカリバー大丈夫かな」
「ドルチェットは、一応腕は良い方ではありますけど、加減が苦手で」
「そんな感じはする」
ジルハのフォローがフォローになってない件はさておき、ドルチェットが残った瓦礫を退かしてエクスカリバーを探すと、明らかにそれらしい箱を見付けたらしい。
「お?変な箱があるぞ。これか?」
ガチガチに拘束された箱をドルチェットがこちらに掲げてきた。
しかもその箱も馬車に鎖に繋がれていて、俺はその箱に妙な親近感を抱いた。同じように拘束されてたからかな?
「どうだ?ちがうか?」
突き刺さる視線はその中からだった。
間違いない。エクスカリバーはその中にいる。
「それです」
「おーけー。よっと」
馬車に繋がれてた鎖をドルチェットが大剣の切っ先で切断し、抱えて持ってきてくれた。
「ほらよ」
箱を受け取ったジルハが「うーわ、ガッチガチ…」とあり得ないほど鎖が巻き付けられた箱を見てドン引きしていた。
間違いなくこれボルガがやっただろ。
「解いてる時間ないな。あとでやろう」
「ねぇ、ちょっと待って。ボルガとあの見張りに仕返しだけしたい。すぐ済むから」
返事を待たずに俺はとあるスキルを発動させた。
此処でも使えるか分からないが、試しに季節イベント参加記念スキル【ネタスキンスタンプ】を発現させた。
スキルという名のアイテムだが、この世界はスキルならば問題なく発動できるらしい。
手に現れたマジックペン型銃。
それをボルガと見張りの方向に向かって発射した。
ペンから発射された光はボルガとオウドの額へと見事に命中した。
「なんですか?それ」
珍しくジルハが興味津々で聞いてきた。
「正月イベントに配布されたやつなんだけど、ムカついたから額に肉ってスタンプ張り付けてやった」
「?? へぇ?」
どんなに擦っても洗っても一週間は落ちないスタンプだ。皆に笑われちまえ。ざまーみろ。
ニシシシと意地の悪い顔で笑ってやる。
「よし、今度こそ逃げるぞ。ノクターン、アスティベラードを呼んでこい」




