やらかしました
思わず警戒すると、最後の男が後ろ手で扉の鍵を締めた。
それだけでも怖いのに、やって来た男性、スキンに比べれば比較的普通の体格の男性が目の前のソファーに腰掛けた。
男性はくいっと丸メガネを指で上げ、笑顔のまま話し掛けてくる。
「えーと、ディラ君で間違いないかな?」
考えすぎか?
警戒しながらも答えた。
「はい、そうです」
「本名かね?」
予想外の返答に、俺の脳内は疑問符で一杯になった。
なんだその質問。
何故突然そんなことを聞くのだろうか。
迷った末、正直に答えた。
「………いえ」
でも、答えて良かったんだろうか。
お腹辺りが変にグルグルする。
男性は笑顔のまま、首を少しだけ傾ける。
「そうですか、では…」
今、気が付いた。
この男、笑顔なのに目が全く笑っていない。
「君はもしかしてアサヒ・オノデラ、という名前ではないかね?」
ドッと心臓が跳ねた。
なんだ?なんで俺の本名が?
途端に甦るアスティベラードの言葉。
「!」
男性職員達が後ろへと回り込み始めた。
待てよ、なんかこれカウンター関連の話じゃなさそうだし嫌な予感がする。
逃げよう。そう思い、立ち上がった。
「あの、俺ちょっと用を思い出したので失礼しま──」
グニョンと景色が歪んで、気付いたら床に倒れ込んでいた。
あれ?なんで俺倒れたんだ?
床に倒れ付した俺のすぐ近くに笑顔の男がやってきて、しゃがみこんだ。
「おやおや、大丈夫かい?」
驚いた様子もなく、心配そうに声を掛けてくる。
なのに、その声は全く心配しているようには聞こえない。
何か言おうとしたのだが、声すら全く出ないことに気が付いた。
むしろ呼吸すら苦しい。
そんな俺を見て、笑顔の男はスキン達へと指示を出す。
「おい、誰か立たせてやりなさい」
「はい」
スキン達に腕を捕まれて引っ張り上げられ、そこでようやく気が付いた。
体の力が全く入らなくなっている。
訳の分からない現状に戸惑う俺の髪を笑顔の男は掴み、引っ張り上げる。
無理やり顔を上げさられ、俺は笑顔の男の顔を真っ正面から見た。
いや、訂正しよう。笑顔の男は、既に笑顔ではなくなっていた。
男は冷たい声で語る。
「アサヒ君。君には、いくつかの罪状が掛かっているのを知っているかい?
まずひとつは、国宝に対する侮辱罪ないし、傷害罪。そしてこれは一番良くない、よりにもよって世界の宝に対しての窃盗罪だ」
男性の視線がエクスカリバーに向く。
…………まさか。
上着の隙間から覗くのは教会のエンブレム。
俺は心の中で叫んだ。お前、教会関係者だったか!!
「君が勇者、コウタ・サトウと一緒に来た不純物というのはもう分かっているんだよ。よりにもよって無銘の神具を盗むとは、けしからん」
マーリンガンを思い出す。
ああ、マーリンガンの言っていたことは本当だったのかと。
そこまで考えて、一つの疑問が浮かんだ。
まて、じゃあ、村は?
次々に思い浮かぶ村人達とおばーちゃん。
悪い可能性が脳裏に浮かんで血の気が引いていく。
「なんで守人がいたのにも関わらず盗めたのかは分からないが、まぁ、それはゆっくりお話しさせてもらうとしようか。君、今毒で喋れないだろう?大丈夫。幸いにもたっぷりと時間はあるからね」
男は掴んでいた髪を離して立ち上がる。
教会関係者はみんな揃いも揃って嫌なやつだ。
聖職者を語る癖に人の扱いがヤクザそのもの。
目だけは何とか動く。
必死に呼吸を続けながら、倒れた拍子に溢れたお茶を見詰めた。
きっとあのお茶には毒だか薬だかが混ざっていたのだろう。
舌がビリビリと痺れるのに疑問をもって止めれば良かったのになんで面白がって飲み続けてしまったのか。
そうか、だから黒いのはお茶飲もうとしたの止めようとしたのか。あーあ、俺のアホ。
「既に教会には連絡をいれてある。連れていけ」
「はい」
体が動かないけど意識はあるのが辛い。
荷物のように運ばれていく俺を、ギルド職員達がなんとも言えない顔で見送っていた。
そんな俺の後ろを黒いのが付いてくる。
歩いているのは職員専用通路らしく、味方はいない。
黒いのよ、俺に着いてくるよりもまず皆に知らせてくれないか?
ヘルプミーって。
さすがに心の中の声は聞こえないか。
「ボルガ様。これはどうされますか?」
俺を運ぶスキンとはまた別のスキンがエクスカリバーを教会関係者の男、ボルガと呼んだ男に見せた。
ボルガは弓を見てなんとも嘆かわしいとわざとらしく悲しんだ。
「邪悪な武器に変えられているが、それも神具だ。樹液と混ぜた聖水に浸し、厳重に保管しろ」
「はい」
体の自由を奪われたが、頭は鮮明なままなので俺はこれからの事を考えていた。
エクスカリバーも取り上げられちゃったし。どうしようかな。と。
スキル使うにも所持しているスキルは戦闘特化タイプばかりのため、こういうときに使えるの無い。
せめて【解毒】スキルとかあればよかったのだが、あれは発動条件が厳しいから難しく、メリットがあまり無かったので取らなかったのだ。
取ってればよかったなー!
今になって後悔していた。だが、後悔先立たずである。
せめて足が動けばやりようがあっただろうか、残念なことに感覚すら無い。水槽から掴み上げられたタコの気分だ。
「全く、勇者の聖戦にも潜り込んだというし、奴の報告がなければ危うく見逃していただろう。それにしてもタグの不具合も恐らくこやつの仕業であろうし、勇者やその仲間に対しての暴言や暴行も報告されておる。これは罪が更に積み重なるな。ホホホホホ!」
今のところ正常に機能している聴覚でボルガの会話を聞いているのだが、ボルガは勝手な事ばかり言っている。
ボルガは俺を見ながらニヤリとした。
「一応ガンウッドから要危険人物だと念を押されたからな。首都に着くまではガチガチに拘束させて貰うがね」
あのクソデカめ。余計なことをー!!!




