シャールフ伝話
一旦店を出て、町外れの川沿いへと向かう。
ならずモノのたまり場だが、そいつらはドルチェットの顔を見ると悲鳴をあげて逃げていった。
なぜ?
別の話になるが、今朝ドルチェットはこのならずモノにいちゃもんをつけられ殴りあいの喧嘩で勝利していたらしい。
絶対にドルチェットと喧嘩はしないでおこう。
人が居なくなった川原に座り、ノクターンが“エラーキフ(灯火)”の詠唱をすると、杖の先が光輝いて電灯代わりになった。
「……さて、ディラ」
「へ、へい!」
「本当に大丈夫なんだな?」
「……」
みんな凝視している。
一応自分で服の下に手を入れて確認した。
分かってはいたことだけど、なんともない。
「だ、大丈夫。傷跡もなにもありません」
「本当だな!?」
「本当です!!」
本当だから迫ってこないでアスティベラードさん!!
お願いしますと懇願すると、疑いながらもみんなは何とか信じてくれた。
「で?」
と、ドルチェット。
「ありゃあ一体なんだ??説明してくれるんだよな?」
先ほどとは違う視線がまた俺へと集まった。
さて困った。
「説明するもなにも、俺も何がなにやらって感じで」
むしろこちらが説明して貰いたい感じだった。
クリフォトもせめてルールブックくらい渡してくれても良いだろうに。
そんな俺の返答に、ドルチェットは「はぁ?」と呆れ顔。
「なんだよ使えねーなお前」
「ドルチェット、言い方」
「だってそうじゃねーか」
ジルハが諌めてくれるが効果はなさそうだ。
「いやー、はは、面目ねぇ。
……あ、でも途中でアスティベラードがシャールフがなんたらって…何か関係ある??」
ピン!とアスティベラードの頭に猫のミミの幻覚が見えた。
ついでに言えば黒いのがアスティベラードの影から頭の上半分だけひょっこりと覗かせている。
なんだこいつ可愛いな。
「…そういえば」
「ですね」
と、クレイとジルハが同意した。
「はーあ??シャールフ?……え?まじで?」
そしてドルチェットまで思い当たるものがあったのか納得した様子。
待って俺だけ置いてけぼり。
当事者だけ蚊帳の外は悲しいので状況説明を求めた。
「あのあのあの!!!すみません!!」
「うおびっくりした声でけーよ」
突然の大声にクレイがびくりと肩を跳ねさせ、ノクターンに至っては軽く跳ねた。
ごめんなさい。
「シャールフが前勇者ってのはノクターンに聞いてつい先ほど知りましたが、それ以外の情報が全く分かりません!誰か説明お願いします!」
「おいおいおい伝承も聞いたことないなんてどんな田舎に居たんだよ」
「ふ、善いではないか。知らぬなら、知れば良いだけの事。ノクターン」
「え…、あ…。はい…」
いそいそと佇まいを正し始めるノクターンにみんなが何をしてるんだろうと見守る。
それにアスティベラードが胸を張って教えてくれた。
「ふふふ、実はノクターンはな、元語り部なのだ。子守りの噺から英雄伝まで実に1000は物語を知っておろう!」
「すっごおー!」
本当に凄い。
凄い凄いと誉め囃してたらノクターンが珍しく顔を真っ赤にして照れていた
さては誉め慣れてないな。
「アスティベラード…それはさすがに言い過ぎです…。
こほん。では…、語らせて頂きます…」
サクランボ色の唇が言葉を紡ぐ。
ノクターンが静かに語り始めたのはシャールフという一人の男の話だった。
昔々の大昔。
ここにいる誰もが産まれる前のお話。
世界の中心にある世界樹セフィロトに、六つのリンゴが実りました。
キラキラ光るそのリンゴは、世界を渡す鍵なのです。
世界が“かえる”その時に実る聖なるリンゴです。
セフィロトの民はこれをもぎ取り、リンゴを鳥に変えて飛ばしました。
一つのリンゴが選んだ国はジャパル。
砂漠の中のオアシスに作られた黄金の国でした。
リンゴが選んだ国で勇者が喚ばれます。
喚ばれたのは一人の青年でした。
鐵の髪に黄金の瞳。
弓に選ばれた彼を人々はシャールフと呼びました。
シャールフは鷹のように遥か先まで見通し、放った矢は岩も砕き、遂には島喰らいと呼ばれる砂漠の主を弓矢一つで真っ二つ。
勇者、シャールフは聖戦へと赴いて、数多くの人々助けます。
瞬きの間に終わる聖戦は世界を懸けたものでした。
勇者が負ければ土地が死ぬ。
そうはさせぬとシャールフは、神具を集め、仲間を得た。
一つ二つと涙を飲み。
三つ四つとで力を得。
五つ六つとで人を越え。
七つ八つとで技を極め。
九つ十で世界を巻き込み。
最後の聖戦に至った彼ら、もはや人ではありません。
神の代行者と誰かが言った。まさしくそうだと頷いた。
そんな彼らと渡り合う敵も弱くはありません。
勇敢な勇者、シャールフは、己の命の矢を作りあげ、敵に向かって放ちます。
矢が真っ赤に燃え上がり、大きな火の鳥となりました。
火の鳥は真っ直ぐ飛んでいき敵の胴を貫きました。
敵の影さえも燃やし尽くし、世界の危機は消えました。
ああ、ついにシャールフがやったと人々は喜びましたが、シャールフの姿がありません。
そうです。シャールフは火の鳥となって敵を貫いたのです。
勇敢な勇者、火の鳥となったシャールフ。
彼の魂は鳥となって空を翔ているのでしょう。
「……これにて…、御仕舞い……」
脳裏に浮かんだシャールフと名乗った男を思い出した。
生気がない理由が分かった気がした。
あの人はもう死んでいたのか。




