打ち上げ
なんだろ怖いなとビクビクしながらアスティベラードに着いていくと、お店の裏側に連れていかれた。
リンチでもされるんだろうか、後ろの黒いのにもずっと見られている気がする
足を止めたアスティベラードがくるりと振り向くと、
「貴様…よもや、後ろのが見えるのか?」
と、言われた。
「!」
バレてる!!いや、気になってちょいちょい見てたから仕方ないか。というか、また黒いのいるし。
これ、どっちが正解だ?
見えた方がいいのか?それとも見えないっていった方がいいのか?
「早く答えろ。見えているのか、いないのか」
ずいずい詰め寄ってくるアスティベラードに頭をフル回転させて考えた。
一か八か、正直に言うか。
見えていると言えば消される可能性もあるが、もしかしていい方に転がるかもしれないと僅かな希望を信じて、正直に言うことにした。
「…見えてます」
「!!」
すると、なんということでしょう。
見えていると答えた瞬間、アスティベラードの顔が見たこともないほどに嬉しそうな顔になった。
「そうか!そうか!見えておるのか!!」
どうしたって言うくらいの素晴らしい笑顔。
今日一日の不機嫌顔が嘘だったのかと思えるほどの。
褐色の肌に墨色の髪、恐ろしい程整った顔から生まれる笑顔は素晴らしいものだ。それが自分に向けられているものだと思えばこれ以上ない喜びだろう。
まだこの人怖いんだけどね。
「………みえてます。こっちめっちゃ見てますよね」
だけど、小さい虫を観察する猫のごとくアスティベラードの後ろから覗き込んでいる黒いのが気になって正直それどころではない。
「どうだ?こやつを見てどう思う?」
「どうって…」
「可愛かろう!」
黒いのを見る。
…かわ…いい??
アスティベラードの期待に満ちた目。
黒いのに視線を移す。
頑張れ俺。こういうときはまず見方を変えるんだ。
困惑しながら黒いのを見た
心なしか黒いのからも期待の眼差しを向けられている気がする
シルエットで判断。シルエットで判断。シルエットで判断。シルエットで判断!!!!
「猫っぽいですよね…。羽のついた…」
「!!!」
アスティベラードの周りにキラキラの幻覚が見え始めた。
正解か?
「~~っ!! さすがはシャールフに似た男!! のう、本当の名前はシャールフとかではないのか??」
「違います違います」
ディラも違うけどシャールフはもっと違う。
というかシャールフ誰。
「アスティベラード…さすがに無いです…」
ぬるんと突然ノクターンが現れてディラは思わず悲鳴を上げ掛けた。
ノクターンさんいつからそこに?
「いつからそこにいた」
「…わりと、初めから…」
影が薄すぎて気が付かなかったのか、それともそういう魔法を使ったのかは知らないけれど。
「……」
その事にアスティベラードはムスーと不機嫌になり、地面を蹴り始めた。
拗ねてんのかな。
「そんなのわかっておるわ…。ただ、ちょっと期待しただけだ。
…はぁ、つまらん。私は戻る」
そう言うやアスティベラードが居酒屋へと戻っていく。その間、黒いのが俺を見ながらアスティベラードに付いていくのが、本当にちょっとだけ可愛いと思ってしまった。
その時、アスティベラードの肩に乗っていたトクルが俺に向かって来た。
目の前で「ケイケイ!!」と威嚇され、アスティベラードへと飛んでいく。
一体なんなのか。
「あの…、アスティベラードが失礼しました…」
藤色の髪のノクターンが俺に頭を下げた。
そんなに謝らなくても大丈夫だけどと思いながらも、俺は疑問に思ってることを聞いてみることにした。
「あのー、シャールフって、誰すか?」
ノクターンは頭を上げ、問いに答えてくれた。
「ワタシ達の国に伝わる…素晴らしい英雄の名前です…。シャールフ・アルチェ…。砂漠の主を矢一つで二つに裂いたと言われる…、前勇者です…」
なんでまだそんな凄い方と俺を結び付けたんだか。
というか。
「前勇者?」
「…? あまり伝承はお読みになりませんか…?」
「いやぁ、無いですねぇ」
ここに来て一月ちょいくらいしか経ってないもので。
「アスティベラードは…、その…事情は明かせないのですが…結構複雑で可哀想な人なのです…。どうか…、嫌わないで貰えませんか…?
後ろの子も含めて…。……」
最後に、見えているんですよね…?と付け加えられた。
あ、やっぱりこの人も見えているんだ。
「あれなんなんすか?」
「ワタシもよく分かっていないのですが…、呪いの様なものです…。でも、アスティベラードが命令しない限りあの子は動きません…。とても怖いですが…」
「ものすごく同意」
でも。
「最後なんか猫っぽいと思ったら可愛く見えてきたし。嫌いにはならないですよ」
多分ね。多分。
しかしその答えが良かったらしい。
ほんの少しだけノクターンの嬉しそうな顔が見れた。
「ありがとうございます…」
ノクターンと一緒に居酒屋に戻ると、アスティベラードを見るとフルーツを黙々と食していた。
ちなみにもう不機嫌顔に戻っている。
だが、こちらを見ると若干表情が柔らかくなった。笑みを堪えるような、変な表情。
それに気付いたクレイがアスティベラードを見て驚愕していた。
気持ちは分かる。
そんなアスティベラードの変化に気付くことなくドルチェットが肉に満足し、芋に手を伸ばしながら話している途中、突然鐘の音のような物が聞こえてきた。
「で?どうすんだ?明日以降もこのパーティーで活ど──」
その瞬間、全ての音が消えた。