やっぱりバグってないですか??
「生き残ったドクガオオカミは皆逃げたようですね…、気配探知の魔法を使いましたが…、山の方角へと移動していきました…」
と、ノクターンが言う。
気配察知の魔法なんかもあるんだ。
「これで依頼達成だな!こんなに早く終わるとは思ってなかった。しかもボスも倒したし、これは報酬が弾むぞ」
クレイのその言葉にドルチェットが表情を明るくした。
「じゃあ今日は宴会か?自分肉食いてえ!」
「君はそろそろ野菜を食べる行為を覚えるべきだと思うけどね」
「ジャガイモは食ってんだろ!?」
「葉野菜のこといってるんだよ!」
ドルチェットとジルハの小競り合いをクレイが止める。
「あー、はいはい喧嘩をするな。
じゃあ、そろそろ帰りますか。ディラ、矢の回収は済んだのか?」
「あ、そうだね」
矢だってただじゃない。
壊れてないなら回収しようとしたのだが、ものの見事に三本全てが壊れていた。
ドクガオオカミのボスから引き抜き手に取った矢の残骸を見詰める。
「粉々になってるからいいや」
矢の先端が衝撃に耐えきれなくてバキバキになっていた。ここまで壊れていたら勿体無いとか思わない。そのまま捨ててきた。
他のドクガオオカミから回収しよう。
そんな俺の矢を見たクレイは呆れた顔をした。
「どんな威力だよ。頼むから人には向けるなよ」
クレイに人に射つ奴だと思われているのか。
「人には弓で殴るから大丈夫」
「それもやめろ」
「ええー」
その後、特になんの問題もなく町に戻ってきてギルドへとやってきた。
対応は勿論クレイで、手持ち無沙汰な人達は近場でそれぞれ暇を持て余した。
「依頼完了報告に来ました」
「証拠の提出をお願いします」
事務的に処理していく受付の人。相変わらず手際がいい。
その途中で、クレイが「そうだ」と受付に声をかける。
「ついでに皆のレベル更新できますか?」
「かしこまりました。それでは各自登録証とカウンターの提出をお願いします」
「みんな集合ー!」
クレイに呼ばれて集まる。
集まったみんなに一つ咳払いをしたクレイが説明を始めた。
「今回はレベル1依頼でも難易度の高い物を選んだから更新できるはずだ。特にディラは相当上がるはずだからこれで更に上の依頼も受けられるだろう」
「これ、上がらなかったら笑うよね」
「そんなわけないだろう」
という冗談を交わしつつ、受付さんの指示に従って提出した。
「お待たせいたしました。こちらが更新済のものになります」
登録証とカウンターを受け取り、全員が確認。
「おー、レベル2になった」
とクレイが初めに言う。
「自分は3だ!」
「斬りまくってたもんね。僕は2か」
次にドルチェットとジルハ。
「うーん…、状態維持ですか…。しかたないですね…。アスティベラードは……、あ、2ですか…」
最後にノクターン。そしてアスティベラード。
皆上がっている中、一人だけ報告をしないディラを不思議がってクレイが声をかける。
「ディラは?4くらいには上がっただろ?」
「…………」
レベル1。
何回見てもレベル1。
みんなに無言で見せたレベル1の表記。
無言のままその表記を見詰め、次いで俺のを見たみんなの頭に揃ってハテナマークが浮かぶ。
「皆無言なの悲しいからなんか喋って!」
ガツンと乱暴な音を立てて何故かアスティベラードが動いた。
「…何故こやつが上がらぬのだ。おかしいのではないか?」
そう言いながらアスティベラードがズイズイ受付に詰め寄り始める。圧に押されて怯える受付さん。
ちょっとアスティベラードさん??さっきからなんか様子がおかしくないですか!?
「あ、あの、アスティベラード?一旦落ち着き「うるさいどう見てもおかしいではないか。こやつが群れのボスを殺ったのだぞ?」
クレイが視線で俺に助けを求めた。
何でか知らないがアスティベラードは俺のために怒っているのは分かった
だけどここは一旦後ろの黒いのを収めて欲しい。
「あのーアスティベラードさん?何か事情があるはずです!聞きましょう!」
「む…、貴様が言うなら…」
あっさり引き下がったアスティベラードにクレイとノクターンがホッと息を吐いた。
俺も安心した。
アスティベラードの後ろの黒いのも引っ込んだからだ。
ホッと息を吐きながら訊ねる。
「えと、これはどう言うことなんですかね?」
「それがですね…、私たちも初めての事なんですが…」
首を傾ける職員。
「ディラさんの、レベルが上がるカウンターの数値設定が恐ろしいほど高いのです。こんなの初めてで、正直困惑しています」
「え、なにそれ」
「一晩お借りしても良いですか?少し確認致しますので」
「ああはい。どうぞ 」
もしかしたら故障している可能性もあるということで、一晩カウンターをお預かりされることになった。
町の居酒屋にて。
「俺だけレベル1かぁ…」
「クヨクヨするなよディラ!故障している可能性もあるっていってたじゃないか!もしかしたらレベル上がりすぎてバグっているかもしれないだろ?」
な?とクレイが励ましてくれる。
良い奴だな。
「よし!明日に期待だ!」
「そうこなくちゃな」
とはいえギルドに依頼完了報告と証拠を提出したらたくさん報酬を貰ったんだ
やはりボス討伐が効いたらしい。
ここは一旦忘れて楽しむ事にしよう。
「では、気を取り直して…、かんぱーい!!!」
ガチャンとなみなみに注がれたジョッキがぶつかった。
豪快に呷れば、冷たく甘い果実水が体に染み渡っていく。
いいねこれ。テスト終わった後に功太とバーガークイーンでの打ち上げを思い出した。
「いやー、それにしても予想以上に動きやすくてビックリしたぜ」
「ですね」
「オレの目は間違ってなかったな!」
「きゃー!クレイさんさすがー!」
「ディラ、さすがに甲高い声はちょっと…」
「あ、そう?」
運ばれてくる料理を頬張りながら下らない話で盛り上がる。
一仕事した後のご飯は美味しいとはよく聞くけど、こんなに美味しいとは思わなかった。
モグモグ夢中になって食べている最中、ふと視線に気が付いて顔を上げる
何故かアスティベラードがこちらをじっと見ていた。
「……」
何かしたっけ?
なにもしてないはずだけど、と、思わず冷や汗を流していると、アスティベラードが「ちょっとよいか?貴様に聞きたいことがある」と言ってきた。
「……はい」
え、マジでなに??
ちらりとノクターンへと視線を送ってみたら、ふいと気まずげに逸らされた。傷付いた。
「早く来い」
「……へい」