不気味な笑み
角と角の間に何かある気配はする。だけど、どんなに目を凝らして集中してもそれらしきものが見えない。
気のせいかと思ったけど、先程の動きは明らかに何かある動きだった。
「功太」
「うん」
二人が同時にスキルを発動した。
基本的な身体能力向上はすでに発動しているので、今回は主に【速度強化】と【雨状放射】などの広範囲かつ物量で押すタイプのやつだ。
さすがにここまでの距離だからきっとこの物量攻撃の前ではバルハニエルだって余裕ではいられないはずだ。
そう信じて功太と総攻撃して回避パターンを分析する
どんなに攻撃をしても身体を通過してノーダメージなバルハニエルは、やはりある空間に当たりそうな攻撃を避ける素振りを見せた
気のせいではなかった
おそらくそこに弱点があるということを確信
一気に間合いを詰めようとした瞬間、上空から巨大な建物が落下してきた。
「ッ!!」
全力で回避。
地面に当たって建物はバラバラに砕け、その破片が風によって吹き飛ばされていく。
「また来た!」
本体を見破られた腹いせなのか、単純に執拗に大質量の物をぶつけようとしてくる。攻撃どころじゃない。
あまりにも連続でありとあらゆるものが飛んで来るものだから、クレイの盾が追い付いていない。というよりもなんだかそれどころじゃないみたいな、そんな感じ。
回避だけじゃ間に合わないと、迫ってくる瓦礫に狙いを定めて矢を放って砕く。
「ちっ」
風の抵抗でだいぶ威力が削がれているせいで、あまり効果がない。
ままならなくて歯痒さが喉の奥に溜まる。
その時、くん、となんだか違和感を覚えた。
しっかりと地面に着いていないような、そんな違和感だ。
その違和感に功太が気付き、顔が青ざめた。
「朝陽!まずいそろそろ魔法の効果が切れる!」
「えっ!? あ…」
そういえば早く戻って来いと言われていたのを思い出した。完全に忘れていた。
嘘だろ、こんなところで切れたら非常にまずい。
一旦塹壕に戻らないとと思った瞬間、足元が強風に取られて身体が浮き上がる。
やば───
吹き飛ばされる寸前に、突然風が消えた。風が止んだとかじゃない。一瞬にして消えたのだ。
わっとと、と、転び掛けたのを持ち直し、思わず辺りを見渡した。
「……ん?」
あちこちで風が消えたことによって飛んでいた物体が浮力を失って落下している。
なんかした?と功太を見ても功太も何がなんだかわからないという困惑の顔をしていた。
ということは功太の仕業ではない。
もしかして、ディスクか?
遠くてディスクの笑い声らしきものが聞こえた。
たぶん、ディスクが神具でなにかやったんだろう。
なにはともあれ、このチャンスを逃してたまるか。
バルハニエルの頭上、恐らく弱点であろう場所に目をやると、先程まで無かった物体が出現していた。
まるで目の形したようなそれは、天使の環ように浮遊している。
その目のような物体の中央部分には宝石が輝いていた。
「あったーーーー!!!!」
ていうかこんなにでかいのなんで見えなかったのか。
急に身に纏っていた竜巻が消滅したことに、バルハニエルは無表情ながら不思議そうな顔をしているようにも見える。
急いで弱点に打ち込もうと矢をつがえ、功太もチャージをしようとした瞬間に、バルハニエルの頭の上にある目がこちらをキロっと向いた。
え、こわ。
次の瞬間、ズドンという爆発音と共に衝撃波がバルハニエルから発せられた。
俺と功太は耐える間もなく吹き飛ばされ、ディスクが生成した岩壁に叩き付けられ深いヒビを入れた。
「がッ…!!」
受け流しのスキルを発動してなかったら、これで潰れていただろう。
ヒビが広がり岩壁が崩れて落ちる音を聞きながらもバルハニエルへと視線を向けると、バルハニエルが俺に向かって槍を向けていた。
まずい。今はクレイの死角だし、俺の雷の矢も間に合わない。
バルハニエルから雷が発射された。
直撃する!!!
着弾寸前に目の前で雷光が弾けた。
何が起きたのかと思った次の瞬間、上から大剣が落ちてきた。
その大剣はサンジョヴェーゼのものだ。
ジリジリと剣の刃部分にちいさな雷が走っている。
下の方に目を向けると、サンジョヴェーゼが投擲後の姿勢を取っている。
もしや助けてくれたのか?
「第二弾来るぞ!!」
「!!」
ドルチェットの警告を受けて身体の痛みを堪えつつその場から飛び退いた。直後に雷が直撃して岩を粉々に砕く。
運良く塹壕近くに落下しなんとか着地を果たすとドルチェットとジルハが駆け寄ってきた。
「無事か!?」
「なんとか…。功太は?」
「あいつも無事だ。ちょっと頭を打ってたから今ノクターンの治療を受けてる」
「え?後方にいるはずじゃ」
「……あのクソ野郎の道のおかげで移動が出来るようになった。タイミング悪くクレイの防御が間に合わなかったが」
ディスクはかなりの広範囲に道を生成したのか
嫌なやつだけど、確かに凄いなと。
ビリとエクスカリバーが警告するように震える。
次の瞬間バルハニエルから“指定”をされたような感覚。
すぐさま矢に【電撃属性付与】を施して放つ。
バルハニエルから放たれた雷を、俺の矢が相殺する。
しかしこれで終わりではない。
次々に放たれてくる雷撃をギリギリで相殺していく。いや、相殺しかさせて貰えない。
なんだこれ。なんでこんなに連発できるの??
外したら終わる太鼓ゲームを強制させられている感覚で、まばたきもままならない。
ひーひー言いながら千里眼や動作加速も駆使して電撃を捌いていると、ジルハが嬉しい情報を伝えてきた。
「今クレイさん達が向かってきているそうです!」
それなら頑張れる!!
射ち漏らしがないように必死に相殺を続ける。
すると、突如として雷が止んだ。
「……?」
来ない電撃に警戒を強めていると、後ろから足音が近付いてきた。
「すまん、遅れた」
クレイ達だった。
「あれ?あのウサギは?魔女も」
ドルチェットの質問にクレイが答える。
「二人は消耗して、今ルカの術で隠遁中だ。かなりの雷を引き付けてくれてたからな」
確かに全く雷の雨が来なかったし、風避けもありがたかった。
魔力切れは動けなくなるらしいし、可能な限り休んでほしい。
そんなことを思いながら、俺はバルハニエルから視線を外さない。
何故なら、また弱点である宝石の姿が霞んできていたからだ。
一つわかったことがある。
どうやらあの宝石は風が強くなるにつれて消えるらしい。
きっとまた見えなくなるんだろうが、今は場所が割れただけでもありがたい。
それにしても。
「……なんで撃ってこないんだ?」
静けさが不気味だ。
なにかのチャージ中かとバルハニエルを見てみて、背筋が凍った。
ずっと無表情だったバルハニエルが、微笑んでいた。




