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聖戦4

「ドルチェット!!!」


 クレイが叫ぶ。


 雷が落ちた箇所に電流が未だに迸り、もうもうと土埃が舞い上がっていた。その土埃の端の方に影が確認できた。

 二人は無事だった。

 ドルチェットが反射的に兄を剣で殴り飛ばし、すぐさまスキル発動で飛び退いていたのだ。


 ホッと安堵しながらも周囲の確認をする。

 困惑している兄達と雷が落ちたと騒いでいる野次馬達が蜘蛛の子を散らしたように街の中へと逃げていく。


 ジリジリと電気の走る音が続いている。


 ゆっくりと煙が晴れていく。

 雷が落ちた地面には放電模様が刻まれ、その中央には人のようなものが居た。

 女性であった。

 しかしその姿はどう見ても人間とは違う箇所がいくつもあった。

 まず頭には大きな黄金に輝く八木の角が生えており、灰色の髪の間からは動物の、例えば猫のような耳が低い箇所から覗いている。

 頭には王冠が乗せられ、まるで何処かの女王のような佇まいであった。


 恐らくアレが今回の聖戦の主。

 見た目だけならば今までのボスよりも人に近いけれど…。


「ディラ、上を見よ」

「!」


 アスティベラードに言われて見上げると、空にポッカリと空いた穴から、なにやら不可視のような、それでいて観測がギリギリ可能な歪みが下りてくる。

 それは周囲の光を吸収しながら形を成していき、遂には人の形を取った。

 クリフォトだ。

 ゆっくりとクリフォトは降下しながら、閉じていた目を開く。


『おや?』


 そして俺と目が合った。


『おやおやおや。まさか最下位が一番乗りとは。今回のは予想外が多くて飽きがないな』


 愉快そうなクリフォト。

 ゆるりと周りを見渡し、ふむ、と口を手で押さえる。


『本来であれば、もう少し待つべきだろうが、コレの性質上無理だろうな。仕方無い』


 ふわりとクリフォトは聖戦の主の上空で止まる。


『これより、聖戦を開始する。コレの名は“バルハニエル”。くれぐれも飛ばされ過ぎぬようにな』


 言い終えると同時にクリフォトの姿が蜃気楼のように揺らいで消えた。


「おい!!ノクターン!!!」

「!!」


 ドルチェットが全力疾走で戻ってくる。


「回復魔法掛けてくれ!!!さっきの雷で耳をやられた!!!ついでに兄貴もやられているはずだ!!!指定してくれ!!!」

「は…、はい…!」


 ノクターンがサンジョヴェーゼも指定にいれ、回復魔法を発動した。

 そういえばドルチェットの兄達はどうしたんだろうかと探すと、彼らもドルチェットの後を追うようにしてこちらに走ってきていた。


「おい!!!なんだこれ!!!」


 と着くなり最年少の二人組が喚き出す。


「説明しろ!!!!」

「さっきの変な音といい、お前らなんか知って───ダッ!?」


 焦っているのか更に声量が大きくなったプルチアとネビオーロにアリアーニコの手刀が落ちる。


「五月蝿い」


 二人とは対照的に比較的追い付いているように見えるアリアーニコとバルベーラだったが、顔色は悪い。

 バルベーラは冷静を装いながら確認するかのように訊ねてきた。


「ねえ、これは一応確認なんだけどー。……さっきの女の子“聖戦”とか言った…?」

「言いましたけど」

「…………」


 黙ってしまったバルベーラに俺はハッとした。

 まさか、こいつら俺のエクスカリバー取り戻すって息巻いていたのに───


「はーん??もしかして怖じ気づいたのか??」


 俺が先を言う前にドルチェットが煽り始める。


「ああ???だ~れが怖じけ付いたかって??」

「確認しただけだろうがよ!!」


 それにプルチアとネビオーロが吠える。

 俺の脳内に小型犬がギャンギャンと吠え合うイメージが再生された。


「ああ」と、クレイが更に肯定する。

「ディラの言う通り、聖戦だ。そして、あれが今回の聖戦の主、ということになるな」


 だよな?とクレイが訪ね、俺は頷く。

 視界にはあの女性にマークが重なり、名前の表記にバルハニエルの文字が羅列していた。


 その時、彼らの後ろの方にいたサンジョヴェーゼが主を無言で見詰めているのに気が付いた。


「?」


 顔色が悪い四人に対して、彼だけ心なしか嬉しそうなのは、なんでだ?


 今考えるのは止めておこうと意識を切り替え、それにしても、と、バルハニエルを見やる。


「……動きが無いけど、始まっているんだよね?」


 バルハニエルは着地した地点から動かない。

 いや、空を見上げる格好に変わってはいるが、特にこちらを攻撃しようとする感じではない。

 よくよく考えてみれば俺達が到着するのはいつも時間が経ってからで、こうして一番初めな時はなかった。

 もしやこっちから攻撃しないと動かない系なのか?


 その時、ジルハが突然弾かれたように空を見上げた。

 ジルハだけじゃない。

 レッドジュエル家の使い魔達も、ジルハとほぼ同時に一斉に空を見上げ、個体によっては怯えたり歯を剥き出して唸り声を上げていた。


「なんだァ?」


 兄達も異変に気付き始め、警戒を始めた。

 俺達はすでに各々警戒体制を取り、ノクターンがコソコソとロエテムの後ろで小声で防御魔法を高速で唱えていた。

 パリパリパチパチと、耳元で小さな静電気のような音が鳴っている気がする。

 エクスカリバーを展開しつつ空を見れば、先ほどまでの晴天とは一変し、何処からともなく黒い雲が押し寄せてきていた。

 あっという間に曇天と化し、風も強くなってくる。

 まるで嵐が近付いてきているような。


「……嵐?」


 黒雲は幾重にも重なり、それらはバルハニエルの真上で渦を巻き、その中央が一瞬瞬いた。

 次の瞬間雲からバルハニエルへ向かって雷が落ちた。

 バルハニエルは空に手を掲げ、その雷を掴んだ。

 見間違いではない。

 光に遅れて轟音が響き渡る中、バルハニエルは掴んだ雷をそのままに空から視線を外してこちらを見た。

 バルハニエルの手には、先ほどまでは無かったはずの白い矛が握られていた。

 白い矛の先端をゆっくりとした動きで俺達に向ける。


『  יַמֻר(アヤムル)  』


 次の瞬間視界が真っ白に染まった。


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