こいつら多分似た者同士
「…………、……次元が違う」
千里眼のおかげで細かい動きを見れはするが、正直戦いが高度すぎて何をどうしてそういう動きになったのかが一切わからない。
もちろんブリオンでもスキル無し縛りの戦闘はあったけど……。
「明らかに人間の動き越えているんだよなぁ……、何あの動き」
明らかに上限レベル30の人間がする動きじゃない。
「うーむ、面白い。やはり達人級同士の仕合は面白いの」
予想外に見入っているアスティベラードの感想を聞きながら、俺は改めてサンジョヴェーゼの観察をした。
サンジョヴェーゼの戦い方は、兄弟全ての技術が混ざり、なおかつ全ての上位互換だ。
まるでスキルを使っているのかと思うような動きを見せ、地面を抉ったり時折見せる飛ぶ斬撃はもはや理屈がわからない。
バルベーラも斬撃飛ばしていたけど、もしかするとこの世界の剣士の上位陣は飛ばすのが普通なんだろうか。
「おっ、あぶねぇー…」
「首狙ってるよねあれ」
「ほんとに容赦しねぇなあの兄さん…」
もしかしたらスキル無しの戦闘ならば、功太よりも上だろう。
剣の軌道が読み辛い上に、ドルチェットよりも一回り大きいあの大剣を、あろうことか片手で振り回している。
見た目だけならそんなに筋肉があるようには見えないし、スキルである【身体強化】【筋力増加】なんかもないはずだが、もしかすると着やせするタイプなのかもしれない。
そして、と俺はドルチェットへと目を向ける。
そんなサンジョヴェーゼの動きに着いていっているドルチェット。
尊敬しかない。
「ねぇクレイ」
「なんだ?」
「あのお兄さんの攻撃さばききれる?」
クレイは唸りながら考え込む。
「……まばたきしなければ、いや、呼吸もしなければ、なんとか??」
「死ぬじゃん」
防御特化のクレイも死ぬ気でやらねば無理らしい。
化け物かよ。
…………いや、ああそうか、と俺は思い直す。
ようやく納得した。
レッドジュエル家は、確かに“神具”を持つのに相応しい能力を持っている。
あのサンジョヴェーゼだけの事を言っているんじゃない。
ドルチェットだって、神具を持つに相応しい実力と能力を持っている。
ぐ、と無意識に拳を握ると、腰に視線が刺さる。
わかってるよ、エクスカリバー。
お前が選んだのは俺だもんな。
大丈夫。
ドルチェットは勝つよ。
「!!」
想像の倍の倍の速度で降ってきた剣をドルチェットは受け止める。
あまりの威力に足元の地面が軽くひび割れた気がした。
この化け物めッ!
内心で悪態をつきつつも、ドルチェットはサンジョヴェーゼの剣を払いのけ、即座に反撃に出た。
アホみたいな強さをしているサンジョヴェーゼは、その見た目からも一撃一撃があり得ないほどに重く、鋭く、それでいて一太刀一太刀が美しい。
まるで舞を踊っているようだった。
舞散る火花。
飛び散る土塊。
唐突に放たれる斬撃をすんでで回避しながら、ドルチェットは刃から放たれる“これ”が何なのかを感じ取った。
巨大な魔力の塊だった。
斬撃を放つ瞬間にサンジョヴェーゼから大量の魔力が溢れ、それらが剣へと流れて放出されている。
ディラの友人、コータとは似て否なるものだが、きっと原理は似ているのだろう。
なんて自分は恵まれているんだろうか、と、ドルチェットは信じてもいない神に感謝した。
───楽しい。
こんなにも強い奴が近くにいて、その全てを見せてくれる。
───楽しい。
体現してくれる。
感じさせてくれる。
──楽しい!
高揚させてくれる。
生きている実感を感じさせてくれる。
───楽しい、もっと!!もっと見せろ!!!
「もっとだァ!!!」
熱い筋が頬から耳に伸びる。
視界に飛び散る赤は、目の前のサンジョヴェーゼのもの。
ドルチェットの剣がサンジョヴェーゼの肩を切り裂いていた。
しかしサンジョヴェーゼは止まらない。
いや、サンジョヴェーゼ“も”止まらない。
「ははっ」
自然と笑いが込み上げてくる。
どこまで踊れるんだろうか。
踊りきれるんだろうか。
お互いに気分は上がり切り、さあここからと思った。
───その時、カチンという謎の音と共に空が暗くなった。
「ん?」
突然変な音がしたかと思えば、辺りが暗くなった。
夜もと違う薄暗さだ。
なんだ??と見上げると、空の真ん中に黒い点が浮かんでいた。
「なんだあれ」
まるで空にインクでも落としてしまったような黒いシミは、じわりと空に溶け込んだ。
そのシミの真ん中の方が白く瞬き、シミを中心に虹色の波紋が空一杯に広がった。
虹色が地平線の彼方まで広がった瞬間、何処からともなく音が響き渡る。
鐘の音だ。
それはゆったりと、それでいて強制的な戦いの時間の始まりの音だった。
「嘘だろ??まさかこんなタイミングで…」
聖戦が始まるなんて…。
はっとしてドルチェット達の方を見れば、さすがの異常事態に二人とも動きを止めていた。
「なぁ、ディラ。なんか、おかしくないか?」
「何が?」
「風景が止まらない」
「!」
言われてみれば確かに風景が止まっていない。
ドルチェットの兄達も困惑したようにしているし、街の方からも声が聞こえている。
もしかして───
ぐにょんと空の中央が歪み、先程のシミが現れた。
しかし今度はそのシミはどんどんと広がっていき、空の巨大な黒い丸になった。
その黒から、ヂヂッと、音が鳴り、次の瞬間ドルチェット達目掛けて巨大な雷が落ちた。




