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生粋の戦闘狂である

 く…っ、とバルベーラは悔しそうにしながらも、折れた細剣ではどうすることもできないのを理解し、観念した。

 これであと一人だと思ったその時、バルベーラの顔色が真っ青になった。


「!」

「あいつ、いつの間に…?」


 バルベーラの後ろに、サンジョヴェーゼが立っていた。

 いつ来たのかもわからない。

 ずっとドルチェットとバルベーラを見ていたはずなのに、サンジョヴェーゼが近付いて来たのに気付けなくて、俺はまるで幽霊でも見てしまったかのような気分だった。


「何をしているバルベーラ」


 サンジョヴェーゼが静かにバルベーラへと話し掛ける。


 そこでようやく俺は気が付いた。

 サンジョヴェーゼの表情が無表情から変わっていた。

 口元は笑みだが、目が決まっていて怖い。


 サンジョヴェーゼからビリビリとした圧を感じる。

 威圧でも殺気でも怒気でもない。

 だけど、絶えず正体不明の圧が掛けられる。

 まるで聖戦のボスを前にしたような緊張感だ。


 バルベーラは怯えた表情で動けずにいた。

 そんなバルベーラにサンジョヴェーゼは一言だけ言い放つ。


「代われ」


 すみません…、と、口にしながらよろよろとバルベーラは退いた。

 サンジョヴェーゼがドルチェットを見下ろす。


「ボロボロだな」


 確かに言われた通りドルチェットの服はボロボロになっていた。

 さすがに妹の服がボロボロでは心配するかと思いきや、発せられた言葉は真逆のものであった。


「まさか怪我をしたわけではないだろう?」


 まるで“人間相手で”怪我なんかするはずがないと言わんばかりの言い方だった。

 思わずドルチェットをチラリと見れば、想定の範囲内の言葉だったようで平然としていた。

 それどころか、笑っていた。


「へ、当たり前じゃねーか。あんなんで怪我するかよ」

「しかし精神的疲労があるのは違いあるまい。なんせバルベーラと戦ったのだからな」


 サンジョヴェーゼのその言葉でバルベーラの顔色が少し戻った。


「言っておくが貴様の為ではない。

 全ては、全力で戦いを楽しむためだ」






 双方合意の上、ドルチェットはノクターンに回復させてもらう事になった。

 もちろん怪我はしていないので、主に体力や気力の回復だけだが。


「なんつーか、思ってたよりも使ってたな、気力」


 やはりさすがのドルチェットでもバルベーラとの高速戦闘で精神が疲れていたらしい。

 そんなことを言っていた。


「さてと」


 裂けた服はどうにもならないので、上着だけ脱いでジルハ預かって貰う。

 切れたのはこの上着のみで、下の学ランみたいな服は全く切れていない。流石である。


「そんじゃ、行ってくんぜ」


 ドルチェットがサンジョヴェーゼの元へと行くのを見送っている最中、バルベーラの使い魔がやってきた。


 気まずそうな使い魔が、ジルハを呼んでいる。

 何だろうか。

 ジルハが行くと、何かを言付けされてすぐに戻ってきた。


「なんだ?」

「サンジョヴェーゼ様の攻撃範囲はとてつもなく広いのでもっと下がっていろと警告を頂きました」


 脳裏を過る初遭遇時に飛んできた斬撃。


 もしあれが本気ではないものだとしたら……、確かにここは危なそうだ。


 クレイも同じような記憶を再生したのか、すぐに下がろうと言ってきた。

 功太ほどじゃないにしても、万が一飛んできたらクレイの仕事が増えるし、何よりドルチェットの邪魔になる。

 下がることでドルチェットの為になるならば、言うことを聞こう。




 ギリギリ干渉できる地点まで下がる。

 ジルハの予想での安全圏だけど、さすがに遠すぎて見えづらいので、早々に千里眼を使うことにした。


 サンジョヴェーゼの武器も大剣だった。

 つまり、火力VS火力の衝突。


「…………普段なら何の問題もないんだけど」


 サンジョヴェーゼを見る。

 何故だろう、謎に不安だ。









「ダーシェット」


 サンジョヴェーゼがドルチェットへと話し掛けた。


「……、……なんだよ」

「お前、“スキル”とやらが使えるのだろう」

「!!」


 ドルチェットは思わず何故、と言い掛けた。

 問いかける前にサンジョヴェーゼは話を続けた。


「聖戦参加者は、スキルという特殊能力が開花すると知らされた。通常の技術とは違うものがあるという」

 そう、例えば───炎を出せるとか」


 驚くドルチェットにサンジョヴェーゼは不思議そうにしていた。


「なにも驚くことはないだろう。レッドジュエルは元々ソードの勇者から派生した家系だ。

 もちろん聖戦の情報だって把握している」


 ……ああ、そうか、と、サンジョヴェーゼは一人納得した。


「お前は聖戦の教育を受けていないんだったな」


 ドルチェットは舌打ちする。


「昔から思っていたが、まじで気に触るわ」

「そうか。それは何よりだ」

「?」


 なんだ今の会話と、ドルチェットは訝しむ。


「さて、話が逸れたが」


 スラリとサンジョヴェーゼが大剣を抜いた。

 ドルチェットによく似たデザインだが、それよりもさらに重厚で───上手く言えないが、“本物”というイメージが浮かんでくる剣だった。


「もし、俺に押し負けそうだと思った時は使えば良い。

 なに遠慮するな」


 髪の間からサンジョヴェーゼの瞳が覗く。

 ゾッとするほど冷たくて、それでいて楽しそうな目をしていた。


「俺も多少はスキルの真似事が出来るからな」


 ドルチェットも剣を抜き、サンジョヴェーゼへと構える。

 次の瞬間、サンジョヴェーゼの姿が消えた。



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