目的地までは徒歩です
俺達一行は町を出て、北へ真っ直ぐ進む。
そよそよと心地よい風に吹かれながら、そうそうこれだよこれ。俺が求めてたのコレ。と、感動していた。
仲間にパーティーに狩り。まさに冒険って感じ。
やっぱり剣に話しかけながら歩くよりは人と話していた方が断然楽しい。
森の中を進みながら仲良くなるべく皆に訊ねてみた。
「レベルリセットやジョブチェンジした方って誰なんすか?」
するとクレイが挙手した。
ジョブチェンジだけかと思っていたけれど違ったらしい。
「オレだ。つも言ったと思うが、元々アーチャーだったがシールダーに武器替えしたときにレベルリセットした。そっちのが成長しやすかったからな。といってもアーチャーも二年くらいだから新人扱いだったけど」
ノクターンがさりげなく挙手し、おずおずと話し始める。
「アスティベラードが…。諸事情があって詳しく言えませんが…」
「………」
ノクターン自身ではなく、相方のアスティベラードの方だったらしい。
チラリとアスティベラードを見れば不機嫌になっている。
諸事情と言っていたが、なにか良くないこととかあったんだろうか。
「自分もだ」
そしてドルチェットも挙手。
この人の場合、なんとなくレベルキャップ解放目的でやったのかと思ったのだが、飛び出してきたのは意外な言葉だった。
「強制的レベルリセット」
「何があったの」
つい聞いてしまったら、ジルハが苦笑している。
苦笑ものなのかと次の言葉を待っていると、ドルチェットが手をわなわなさせながら答えた。
「生意気だからって理由で兄上に無理矢理だよ。そのあとボコったがな」
「この人レベルリセットでフラフラしているのに、10人のしているんですよ。笑いますよね。狂犬と笑っていいですよ」
「その髪の毛むしるぞ」
「やめろよ」
そんな理由でレベルリセットされたらたまったもんじゃないな。
にしても二人はどんな関係なんだろうか。幼なじみとかかな。
そう言えばと、ノクターンとジルハに訊ねた。
「ノクターンやジルハさんは違うんですね」
申し訳なさげな顔で「はい…」とノクターンが頷く。
「ワタシは…、すみません…レベル3です…」
「僕はレベル1ですね。実は登録する気なかったのに、この横の人が原因でせざるを得なくなりました」
髪の毛を捕まれたままジルハは横を指差す。
ジルハの隣は当然ドルチェット。
なるほど、君もいわゆる巻き込まれですか。
軽く親近感。
「お前はどうなんだ?ニンジン」と、ドルチェットが俺に話を振った。
振られたは良いけれど、ソレよりも先に気になる言葉が引っ掛かってそっちのが口から飛び出してしまった。
「ニンジン?」
何故ニンジン。
恐らくそれは俺のことを示しているのだろう。現にドルチェットの視線はこちらを向いている。
するとジルハが理由を教えてくれた。
「すみませんこの人髪の毛の色でアダ名付けるの好きで」
「なるほど。だからクレイがキャベツだったわけね」
納得した。確かにクレイは頭の色がキャベツである。
そして俺はニンジン。
とするならばアスティベラードとノクターンのあだ名は何になるのだろうか。黒い野菜が全く思い浮かばない。
「ところでディラさんは初登録なんですよね?どうして登録を?」
今度はジルハが訊ねてきた。
こんな事で登録したって言って良いのかと少し考えたが、そもそもクレイは知っているので正直に言うことにした。
「図書館に入る為の身分証が欲しかったんです」
「………」
「………自分そんな理由で登録したやつ初めて見たぜ。ネタか?」
先程から無言なアスティベラードとノクターンも嘘だろうと言う顔。
いいや、とクレイが代わりに否定してくれた。
「その話はガチだ。実際困っているところを声かけたのオレだからな」
「そんな理由で作る奴もいるんだな」
信じてくれたっぽい。
いや、別に信じてもらえなくても良いどうでもない事なんだけど。
そんなドルチェットの視線は背中に越しに下げた折り畳んだ弓に注がれる。
「でもその前から弓は持ってたんだよな?」
なのに登録してなかったのは何故だ?ということなのだろう。
「村を出て森のなか歩いてたから、護身用で。ほら、危ない生き物もいるしさ。とりあえず一通り使えるから足手まといにはならないと思う」
ふーんと言いながらもドルチェットは「ならよし」と言わんばかりの顔で近付いてくる。
「期待してるぜ、援護射撃」
そして笑顔のドルチェットに胸元を拳でドンと叩かれた。響く。