乾燥ワカメの項目は削除した
下らない雑談に花を咲かせていたところ、ただいまと三人が帰ってきた。
「お帰り───!!!???」
後ろに元に戻ったクロイノを従えて。
「戻っている!!!!」
「本当だ!!!」
「小さくない!!!」
それぞれ驚きつつ久し振りのクロイノの感触を味わいたいと、「わーい」とクロイノに抱きつくとホッカホカだった。
真冬の炬燵並みのホカホカ具合。
それか蒸された肉マンか。
「なんか、クロイノが温かいんだけど……???」
困惑しつつもアスティベラードに訊ねる。
「一緒に浸かったからな」
「それで元に戻ったの??」
「うむ!!」
アスティベラードの顔は誇らしげだった。
どうだ、うちのクロイノは凄かろうと副声音が聞こえる気がする。
マジか。 乾燥ワカメかよ。
俺のクロイノ辞典の項目に『お湯で戻る性質がある』が追加された。
「いえ…、あの、ちょっと違うといいますか…」
ノクターンが恐る恐るという風にやんわりと否定する。
「??」
どういうことだと訊ねるクレイにノクターンが説明を始めた。
ノクターン曰く元々クロイノは桶にいれて一緒に入っていたらしいが、今回は一緒に入ったらしい。
それがホカホカだった理由。
そして元に戻った最大の要因は内部の欠損部分を直すのにかなりの時間がかかり、それがようやく塞がったので身体のサイズを戻す為にエネルギーを全て回すことができるようになったとの事だった。ついでにお湯の熱も利用することが出来たとかなんとか。
俺バカだからよくわからないけど、
「元に戻って良かったよぉー!!!」
ずっと心配していたし気掛かりだった。
存分に撫で回していると、クロイノももっと撫でろと体重を掛けてきたのでもっと撫でた。
なんせ俺を庇ったせいで怪我をしていたのだ。
「それじゃあ、クロイノ復活のお祝いとして今日のご飯は豪華にしよう」
そんな提案をしてくれたクレイ。
さすがはリーダーだ。
「賛成!!!」
その夜、奮発してお肉三昧にしたが、その半分をクロイノがペロリと平らげた。
よほどお腹が空いていたようだ。
ならばとまだ残っているニンジンゴドライフルーツは食べるかと差し出したら、それは要らんとそっぽを向かれた。
なんでだよ。
あっという間に決闘当日がやってきた。
地図の指示通りの場所へと赴くと、なにやら観客がわんさか集まってきているし、街の塀の上から双眼鏡で覗いているやつもたくさんいる。
「……なんか、人多くない?」
別に普通の決闘だから公開していないし、というかそもそも見世物じゃないんだけど。
どっから情報漏れてるの。
「ここらは娯楽といえば色事や賭け事が主だからな。女を掛けての決闘も珍しくはないから、この前の会話を盗み聞きしていたやつが広めたんだろうさ」
「人の決闘だってのに勝手だなぁ」
なんなら野球観戦のように食べ物や飲み物とかも販売している姿も見える。
さすがに自由すぎるだろ。
そんな感じで嫌がっていると、アスティベラードが提案をしてきた。
「クロイノで散らすことも出来るが?」
クロイノの圧を使えば簡単に追い払えるが、それにクレイがいやいいよと止める。
「ああいうのは散らしたところで数分もしないうちに戻ってくる。
勝手に観戦して怪我をするのも自業自得って考えがあるから、好きにさせておこう」
クレイが群がる野次馬を冷めた目で見た。
「本気でやばいと思ったら逃げていくさ」
「扱いが野性動物」
こんなにアハーンウフーンな大人の街なのに、いいのかその扱いは。そう思ったが、兄との初接触時にみるみるうちに増えた野次馬を思い出して納得した、
本能なんだろうな。野次馬が。
確かにそれなりに距離を取っているし、一応は大丈夫だろう。
それはそうと、まずはドルチェットだ。
今回、ドルチェットは色々な制限を掛けることにした。
なにせドルチェットは聖戦によってレベルの上限が解放され、それによって一般人とは言いがたい程にレベルが上がっているからだ。
だからまずはスキルの発動を禁止にした。
それはドルチェットが純粋な剣技のみで叩きのめしたいと言ったからだ。
「それにしてもさ、スキル封じたってレベル差があったらドルチェット楽勝じゃないの?」
レベルの差というのは、結構大きい。
力もそうだが、それこそ、同じ作業を本気で打ち込んで数年分の経験値の違い程には差が出るのがレベルなのだ。
特にドルチェットなんかはうちのパーティーアタッカー二番手だ。
なんなら接近戦では俺が負けるだろう。
「ディラよ、それは間違いだ」
しかし、アスティベラードは違うと言う。
「レッドジュエル家はただの剣士の家系とは違う。あやつらの武器は変幻自在の攻撃方法だ。それに、スキルに似たこともできるのがあ奴等の武器である」
急激な剣の軌道の変更や、飛ぶ斬撃が脳裏に思い起こされる。
「だから、余裕なんて思っておったら噛まれるぞ。レッドジュエルは、まさに“壺の中の蛇”だ」
※窮鼠猫を噛むや、飼い犬に手をかまれるに近い言い回し。
つまりは、壺の中に入れられていると言って油断をしていれば、容易く鼻を咬まれるということだ。
「ウスノロ!!早く来い!!!」
「時間も分からねぇのかァー??」
早く来いと煽ってくる兄達を冷ややかに見下ろし、荷物を俺に預ける。
「そんじゃ、行ってくる。いくぞジルハ、クレイ」
ドルチェットの後ろからジルハとクレイが付いていく。
なぜクレイも一緒なのか。
クレイの盾ならば、何かあったときに間違いなく止めてくれるという信頼感と、リーダーだからという理由だ。
一応決闘のルールはジルハから事前に聞いたけど、それでも万が一というのが無いとは言い切れない。
兄達の負けず嫌いの酷さはドルチェットとジルハのお墨付きである。
まぁ、何かあったときは俺も介入するつもりだけど。
案の定下の兄弟二人にガーガー言われるがクレイ達は流している。
さすがは盾職だ。受け流しが上手い。
うるさい弟組を無視して、クレイは一番上の兄、サンジョヴェーゼへと話し掛けた。
「決闘のルールの確認をしたい」
サンジョヴェーゼに話し掛けたのは、弟に比べればまだまともそうな感じだからだろう。
ドルチェットいわく一番ヤバい兄らしい。
ここで一度ルールの確認をしておくことで、相手が違反したときに追求することが出来るからだ。
しかし、サンジョヴェーゼか返答するよりも先に、三番目の兄、アリアーニコが通せんぼしてクレイを睨むように見下ろした。
あの常に不機嫌で無口そうな方のだ。
たっぱがある上に威圧感もある。
そんなアニアーニコとクレイの間に二番目の兄、
バルベーラが割り込む。
「はいはーい、気軽に兄上に話し掛けないでね~。で?なに?ルールの確認がしたいって?」
緩そうな顔して意地悪な笑顔だ。
目は完全にクレイをバカにしている。
「あんなに簡単なルールを覚えることも出来ないなんて可哀想に
本当は無能に掛けてやる時間すら嫌だけど、今回はいいよ~。
何せ───」
視線がドルチェットを向く。
「───うちのチビのお仲間?みたいだしぃ~」
「もったいぶらずにさっさと言えば良いだろ鳥頭」
「うるさいな。ドチビ」
大丈夫かな…。