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金属の臭いしかないのに動いているし喋ってる

 宿に戻ると皆勢揃いしていた。

 やけに疲れている俺達を見てアスティベラードがどうしたと声をかけてくる。


「それが……」


 兄達とのエンカウントし、ドルチェットが盛大に啖呵を切った結果、兄達とドルチェットが一騎討ちをすることになったとの状況説明をクレイが終えた。


「その内あいつらから連絡が来るはずだから、それまで待機ってわけだ」


 ドルチェットが完全に椅子に座り込んで休息モードになりながら言った。


「宿分かるの?」


 疑問を口にすればドルチェットは当たり前のように答えた。


「完全に接触したし、匂いで絶対に来るだろう」

「色々対策してたってのに無駄だったか」


 クレイが残念そうにしていた。

 まさかドルチェットじゃなくて俺を直に追ってくるとは思わなかった。

 隠密で気配を極限まで抑えていたというのに。


「部屋でも荒らされて匂い覚えられたかもしれませんね」

「盗賊かよ」


 ジルハの予想に俺は少し引いた。

 俺達だって馬車は襲ったけど、宿屋は荒らさなかったぞ。

 ……俺が知っている限りはやってないはず。


「やはり最後に使い切りの香でも大量に焚いておけば良かったか」


 アスティベラードの意見に賛成した。


「ね。次からはそうしようか」


 宿主に怒られるかもと止めたのが裏目に出てしまったのだ。

 次なんてないほうが良いけど。


「ところで、兄達のどれかが来るの?」

「…おそらく、使い魔の誰かが来るでしょう。そういう役目もありますし」


 使い魔っていうと、兄達の後ろに控えていた大人ジルハみたいなのか。

 みんなジルハのような完全人間形態じゃなく、半分だけ人間みたいな感じだった。


「おそらくプルチア様の使い魔が来るでしょうね。なにせプルチアはドルチェットの双子の兄なので」

「ジルハ。言わなくて良いこと言うなよ」

「へぇー」

「あー、どーりで」


 ドルチェットは怒気を含んだ声でジルハを諌める。

 知られたくない事だったのか。


 しかし、と、思い出される金グラデーションの少年は、ドルチェットと瓜二つだった。

 それこそ細かい表情の作り方まで、だ。


「ん?そういえばダーシェットって───……」


 ドルチェットが凄い顔で俺を睨み付けていた。


「───なんでもないです」


 触れられたくない話らしい。


「にしても使いかぁ、誰が出る?」

「そりゃあ、やっぱりジルハとか」


 ジルハを見ると凄く嫌そうな顔をしていた。

 察する俺とクレイ。

 次いで何とはなしに皆を見る。

 アスティベラードとノクターンは除外。危ない。

 ジルハは先程の様子を見るに止めた方が良さそう。

 ドルチェットは論外。


「とすると残るは俺かクレイか」

「お前は駄目だろ、とすると対応するならオレだろうな」

「でも大丈夫?プルチアの狼って、さっきクレイが盾で殴って落としたやつじゃない?」

「……あ」


 クレイは、あー…、と言いたげな顔をしていた。

 自分がボコった相手を忘れるとは。

 いや、相手は狼形態だったから仕方がないとはいえ、相手は間違いなくボコったクレイの顔を覚えているだろう。


 つまるところ、誰が出ても穏便には済まなさそうである。


 どうしたもんかと悩んでいれば、トントンと肩をつつかれた

 ロエテムだった。


「なに?どうした?」


 す、と差し出されるノート。

 “私が対応します”と書かれていた


「え、良いのそれ」

「名案だな!確かにロエテムだったら面識もないし、何かあっても硬いから怪我しない」

「取っ組み合いになっても大丈夫そう」


 そんな感じで、やってきた使者対応にはロエテムが採用された。

 念のためにすぐに防御出来るようにと、リーダーであるクレイが補佐として横に付くことになった。

 これで万が一襲い掛かってきたとしても、即座にクレイの盾で閉め出せるというわけだ。


 しばらくして、使い魔がやってきたのをジルハか感知した。

 窓から確認すると確かにやって来ている。

 頭に包帯を巻いているところ見るに、たぶんプルチアの獣人なんだろう。

 相当に不機嫌そうだ。


「なんかむすっとしてない?」

「そりゃ殴られた相手のところに行けって言われたらあんな顔にもなるだろ」

「そりゃそうか」


 それにしてもプルチアの姿がないが、どっかに隠れているのか。


「ロエテム、準備!」


 そうこうしている内に使い魔が部屋の前にやって来た。


 ドンドンガンガンと、使い魔は荒々しくドアを叩いている。

 これもうストレス発散で叩いてない?


「おーい!!!!この最下位!!!早く開けんかゴラァ!!!!」


 怒鳴りながら叩いている。使い魔も荒々しいのかよ。

 ロエテムと目配せをして、扉を開いた。


 飛び出してきたのは脚だった。

 蹴ってたんかい。


「ちっ、さっさと開けろよ。本当にどこまでもドンクサ───」


 プルチアの使い魔が目の前のロエテムを見て固まった。

 分かりやすく耳が下がり、尻尾も下がっている。

 恐らく、ジルハが出ると思ったらデカイ全身鎧が出てきたのでビックリしてるんだろう。


「失礼、レッドジュエルの使者の方でございますか?」

「!!?」


 分かりやすく使い魔がロエテムにビビっている。

 喋れないロエテムの変わりに扉に隠れているクレイが質問しただけなんだけどな。


「あ…ああ、そうだ。これを渡しに来た。受け取れ」


 ポケットからしわくちゃの封筒を取り出す。

 人に渡すものは丁寧に扱えとかの礼儀は教わってないのか。


「ありがとうございます」


 ロエテムが差し出した手に、使い魔が恐る恐ると手紙をおいた。

 最初の態度はいったいどうしたのかって思うほど丁寧な受け渡しだった。

 現に使い魔の尻尾は下がりきっている。

 何て分かりやすいんだ。


「確かに受け取りました」


 そんな使い魔にロエテムは礼儀正しい態度で接し、クレイはそれに合わせて声を付けているだけだから、冷静にしていれば仕組みに気付くはずなんだけど、それすら考え付かないようだった。


「た、確かに渡したからな!!お前ら逃げんなよ!!」


 そう言い切って使い魔はそそくさと帰っていった。

 最後まで耳と尻尾は下がったままだった。


 隠れていたアスティベラードとノクターンがやって来て、ノクターンはロエテムをそっと撫でる。


「…そんなに怖いですかね…ロエテム…」


 ちょっとノクターンが傷ついていた。


『脅かすつもりはなかったのですがね…』


 ロエテムも傷ついていた。

 かっこいいのになぁロエテム。


「とにかくもさっさと中身を確認しよう」


 クレイが早速と手紙を確認する。

 中は嫌みマシマシ言語で三日後にこの街の外にある大荒れ地にて行うという旨と、負お荒れ地の位置が描かれている地図が同封されていた。

 そして空いている箇所に逃げんじゃねーぞとか、吠え面かかせてやるなんて文章も書かれている。


 誰が書いたのかだいたい予想できる。

 きっと下の兄二人だろう。


 日付と時間と場所の指定以外には無いことを確認すると、ふああーっ!とドルチェットが大きく欠伸をした。


「はぁー、なーんか疲れたぜ。アスティベラード、ノクターン

 風呂入ってこよーぜ」

「え」

「そんな出歩いて大丈夫なの?」


 ダイジョーブダイジョーブとドルチェットは言う。


「決闘を宣告した場合、あいつらはそれ以外だったら襲ってこねーんだ」

「変に律儀だな」


 とクレイが言う。俺も同意見だ。


「ちげーよ。単に闇討ちでしか勝てねぇ弱者と見られるのが嫌なんだろ。プライドの問題だ」

「ふーん」


 この時点で俺の中でレッドジュエル=いろんな意味で面倒くさい奴らの方程式が出来上がっていたのであった。



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