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見事な啖呵でした

 


 かなりの距離だったはず。

 もしかして人間ロケットもどきとかやった???


「うぉおおおおお!!!!」

「逃げろ逃げろ逃げろ!!!!」


 サンジョヴェーゼは屋根を破壊しながら特攻してくる。

 一般人が居ようとも関係なく、サンジョヴェーゼは構わずに攻撃を仕掛けてきていた。正気かこいつ。


 サンジョヴェーゼの武器はドルチェットと同じ大剣だった。

 そのせいか攻撃力が桁違いで、一振りごとに残撃が飛んで、軌道上のものを容赦なく破壊していた。

 一般人が悲鳴を上げて一目散に散っていくのを確認しながら、俺はジルハの言っていた、まずは手が出るという意味をよーく理解した。


 俺達はクレイの盾や回避で無傷だけど、このままだったら足場が崩壊して死傷者が間違いなく出る。

 何せこの屋根のしたにはまだ人が居るんだ。


 さすがに嫌だったけど、もう応戦するしかないか。

 とりあえず一発剣を狙って牽制して───






「くそ兄貴がぁ!!!!」



「!!」


 突然ドルチェットの声が降ってきた。


「ドルチェット!?」


 白と赤の閃光が俺とサンジョヴェーゼの間に走る。

 砕け散る屋根の破片の向こう側で、ドルチェットがサンジョヴェーゼの剣を受け止めていた。

 ギリギリとドルチェットとサンジョヴェーゼの剣から軋むような音が発生している。

 力は拮抗していた。


「……ダーシェット、何をしている」

「その名前で呼ぶんじゃねーよ!!」


 ドルチェットはサンジョヴェーゼの剣を振り払い、距離を取った

 そうこうしている内に、残りの兄たちがやってくる。

 それぞれ狼に乗っているところを見ると、たぶんこのサンジョヴェーゼも狼を利用したんだろう。


 赤髪の兄がドルチェットに気付き、意地悪な笑みを浮かべた。


「はい出たー!!クソミソ出来損ないの妹が何の用だよ!!

 ろくに命令も遂行できない無能やろう!」

「にーちゃん、アイツは女だからやろうじゃ変じゃねェ?」

「そうか。無能女!」


 次に年齢層が高い二人組も同調するように話し出す。


「うーん無能女かぁー。妥当だけどなんか変な言い方だねー。アリアーニコはどう思う?命令違反はそく打ち首で良いと思うんだけど?」

「弱いものに興味はない。全てサンジョヴェーゼ兄様の意向に従う」

「ほんっと生真面目~」


 次々にドルチェットが馬鹿にする言葉に、俺は少し苛ついていた。

 今すぐにでも反論したいけど、と、俺は前のドルチェットに視線を向ける。

 ドルチェットが後ろ手に制止の合図をしていた。

 つまりは俺達は口を出すな、ということだ。


「でもおれも賛成、どうすんのー?兄上?」


 黒混じりの緩そうな男がサンジョヴェーゼに問い掛けた。

 ドルチェットへと構えていた大剣をサンジョヴェーゼは下げる。


「理解ができんな。仮にもレッドジュエルの一員でありながら命令に背き、その盗人を護ろうとする」


 ドキリとした。

 おおよそ妹に向ける目ではない。

 絶対零度と言えるくらいに冷たい目がドルチェットを見下ろしていた。

 しかしドルチェットはそんな兄の目を気にすることなく、鼻で笑い飛ばした。


「仲間だからな」


 ドルチェットの答えにサンジョヴェーゼは僅かに片眉を上げた。


「つまりお前は犯罪者に加担すると?」


 不快そうなサンジョヴェーゼにドルチェットが口元に笑みを浮かべ、俺の事を親指で示した。


「最近やけに突っかかってくるじゃねーか。普段あんだけ確としておいてよ。っつーかよ、盗人呼ばわりするってーのは、こいつの弓のことか?」


 無言のサンジョヴェーゼにドルチェットは嘲笑する。


「はっ!お前らにはぜってぇーこの武器は扱うことなんかできねーよ!」

「なんだと…?」

「んだてめェー!!」


 激昂する兄たちをサンジョヴェーゼは視線だけで押さえる。

 凄く不快そうな顔をしながらも、冷静さを保っている。


「…どういう意味だ?」

「そのまんまの意味だよ!つーか…、弱いんだよお前ら。こいつの片腕にも及ばねぇ。……いや、違ぇーな」


 ガンと大剣を屋根に突き立てた。


「お前らなんか自分一人で十分だっての!!!」


 ドルチェットの言葉に一気に膨れ上がる殺気に焦った。

 こんなところでやりあえば大変なことになる。

 どうしようとクレイを見ると、クレイも一応という風にいつでも動けるように準備していた。

 しかし心配に反して襲ってはこない。

 サンジョヴェーゼが冷静に、淡々と聞き返す。


「…つまりは一番ドベなお前が俺たちに喧嘩を売った、そう認識していいと?」

「ああー、そうだ!寄って集ってしか可愛い可愛い妹さま一人にも勝てない泣き虫風情が、乗り越えられると思うんじゃねーぞ!」


 盛大な啖呵だった。


「てめぇ、聖戦参加者だからっていきがってんじゃねーぞ…っ」

「……つまりは、お前一人で俺たち全員伸せると、そう言いたいんだな?」

「だからそう言ってんだろ?」


 ドルチェットがびしりとサンジョヴェーゼに指差す。


「テメーにだって負けねぇー!」


 兄たちの後ろで獣人達が唸り声をあげはじめた。

 今にも襲い掛かってきそうなその瞬間、ドルチェットの隣にジルハが着地した。

 手には短剣を持っている。


「……最下位が……」

「?」


 ぼそりとそんな言葉が聞こえた。

 誰だ?

 少なくとも兄のうちの誰かの声ではない。


 はは、と小さくサンジョヴェーゼが笑う。

 それに後ろの兄達は驚いた顔をしていた。

 サンジョヴェーゼは剣を鞘に納める。


「…そこまでいうのなら見せてもらおうじゃないか。

 ただし、俺達に負けたときの代償はどうするつもりだ?今度はレベルリセットじゃすまないな」


 クレイがひそひそと話し掛けてきた。


「おい、どうするディラ…、なんかやべーことになってるぞ」

「うん、でも…」


 俺はドルチェットを見る。

 ドルチェットなら大丈夫だと思える。

 ニィ、と不敵に笑うドルチェットが宣言した。


「命を掛けてやる!!」

「いやなんつーもん賭けてんだアイツ!?」


 クレイの突っ込みに同感したが、兄達はゲラゲラ笑っていた。


「お前の虫みたいな命掛けられても釣り合わねーんだよ!バァーカ!」

「カァース!」

「そうだな」

「お前なんかの命なんか取ったところで面白くもないし~」


 ふむ、とサンジョヴェーゼが一つ頷いた。


「ダーシェット。お前が一度でも負ければ、……そうだな」


 サンジョヴェーゼが俺を指差す。


「あの盗人の命と、勿論そこの神具も返してもらう。

 もともとはそこの盗人が俺達の神具を横取りしたのが原因だからな」


 俺に向けて兄達はいやな笑みを浮かべていた。

 こういうやつ嫌いだな。


「そんなの受けるわけがな───」

「ドルチェット!!」


 クレイの言葉を遮り、俺は叫んだ。


「やっちまえー!!」

「ハァッッ!!???」

「へっ! 乗ったぜ糞兄貴!!せいぜいテメーらも代償を何にするか考えとけ!!」


 サンジョヴェーゼが踵を返す。


「戻るぞ」


 舌打ちしながら下へと降りていく兄達と狼を見送り、姿が見えなくなるとホッと息を吐いた。


「おい、ほんとマジなに考えてんだお前…っ」


 怒っているクレイに俺は言ってやった。


「俺さぁー、あーゆーの大嫌いなんだよね」


 それに、と、俺はドルチェットを見やる。


「ドルチェットがリベンジマッチするんだし、その鍵の一つを俺が持っているのなら利用しない手はないでしょ?」


 さっきからエクスカリバーに刺されそうな視線を送られているけど、今回だけは手伝ってもらいたい。

 ドルチェットの為にも、そして───


 ドルチェットの隣に静かに佇んでいるジルハ。


 ジルハのためにも。

 珍しくジルハの足や手が震えていた。

 それにさっきの謎の声…。


 何があったのか分からないけど、きっと二人が乗り越えるべき壁の一つなんだ。


「……はぁーっ!」


 クレイが盛大な溜め息を吐いた。

 そしてドルチェットを呼ぶ。


「ドルチェット!このバカの為にも全力でやれ」

「はっ!了解だリーダー!」





 帰り道、後ろからドルチェットが背中をバンと叩いてきて思わず咳き込んだ。


「げほ、なに?」


 ドルチェットは珍しく静かに笑みを浮かべていた。

 そんな顔できたのか。


「ディラ、あんがとな」

「え、お礼を言うのは全部終わってからでしょ?」


 そう言えばドルチェットは少しだけ驚いた顔をして、またいつもの表情へと戻った。

 やっぱりこっちのが安心する。


「だな!任せとけ!!うちのパーティー攻撃手二番手だって伊達じゃないってところ、見せてやる」


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